【ロビン、ロビン、ロビン♪ 8】



 しばらくして、おばあさんが他の花壇の手入れの為に、ラディのいるバードテーブルから遠ざかると、その猫がのっそりと起き上がりました。猫はバードテーブルのすぐ下までやってきておもむろにラディに声をかけてきました。
「おい! そこのチビすけ」

「ん?」
美味しい果物に夢中のラディは、その声にキョトンと顔を上げ、周りをキョロキョロ。でも、すぐ下の猫には気がつきません。
「気のせいか。うん」
勝手にそう納得してラディはまた果物をツンツン。

 猫は呆れてバードテーブルを見上げました。もし猫が本気になれば充分に飛びかかれる高さです。おばあさんに叱られますし、小鳥を襲わなくてもえさは充分にもらっていますから、もちろんそんなことをするつもりはありませんが。それでも、このあまりに警戒心のない新入りを見ていると、なんだか少しイライラしてきます。

『はぁ、まったくロビンってやつは……』
猫は大きく一つため息をついて、それからもう一度大声でラディに声をかけました。
「おい、おまえ。そこのお気楽能天気ロビン! 食い物に夢中になっていないで、ちょっとは辺りを気にしろ!」

「えっ?」
間違いありません。確かに誰かが自分を呼んでいる。ラディは再び顔をあげると、上空をキョロキョロ、辺りをキョロキョロ、そして、テーブルの下をキョロキョ……ロ。

「ぎょぇ――っ!! 猫ぉ―――!!!」
突然、すぐ下に天敵である猫の姿を発見したラディはすっかりパニックに陥ってしまいました。慌てて飛び上がると、どうしていいのかわからず近くの樹の枝をあちこち行ったり来たりパタパタと大騒ぎ。

「おいおい」
猫はラディのあまりの慌てぶりに苦笑しながら、それでも自分がいかに小鳥たちに恐れられているかを確認できてまんざらでもない様子です。
『まあな。こいつらにとって俺様ほど怖い存在はないだろうけどな』
少し得意になりながら、猫は王者の余裕といった態度でラディに言いました。
「そんなに慌てるな。おまえを食ったりなんかしない。ただ、ちょっと話しておかないといけないことがあるだけだ。こっちへ来い」

「へっ? 話?」
高い枝の上でいきなり動きを止めて、ラディは猫を見下ろしました。猫は厳かにうなずいて言います。
「そうだ。今までいたロビンはきちんとした節度を持ち、俺様との距離をうまく保って生活していた。だがどうやらそいつはおまえと代替わりしたらしいからな。それで、面倒だが新入りのおまえにここでの生活のルールをいくつか教えておいてやろうと思ってな。そこでは遠い。もう少しこっちへ来い」

「そっかぁ。は〜い!」
猫の言葉に納得すると、ラディは素直に枝から飛び立ち、そして猫のまん前に降り立ちました。

「ぶっ!」
さすがの猫もこれにはびっくりです。「来い」とは言いましたが、まさか目の前に降りてくるなんて。
『な、なんだこいつは? いくら来いと言われても、ここまでそばにやってくるか?』
どうやらこの新入りロビンはお気楽が売り物のロビンの中でもとびっきりの天然のようです。

「おい。いくらこっちへ来いと言っても、目の前に下りるやつがいるか。上だ。上にいろ」
「ええっ! 上? ……はい」
猫の言葉にラディはびっくり! それでも、素直に飛び立つと猫の背中にチョコンと降り立ちました。そして、とても居心地が悪そうに、恐る恐る猫に声をかけました。
「あのぅ……ボク、とっても怖いんですけど……」

 猫は一瞬驚きのあまり絶句しました。上と言ったのは当然バードテーブルの上ということです。まさか自分の背中に乗ってくるなんて。
『こいつ……とんでもなくアホだ』

 呆れかえって激しく動揺した猫は、自分を落ち着かせる為に一度大きく「コホン!」と咳払いをしました。それから、静かにラディに言って聞かせました。
「そうだろうな。俺様もまさか上に乗られるとは思わなかったぞ。いいか、俺様が上といったのはそのテーブルの上ということだ。お互いの為にそれくらいの距離は保つ必要があるからな。その気はなくても目の前でチョロチョロやられると、俺様の狩猟本能が働いてしまうんでな」

「あっ、なんだ、そかそか」
ラディはホッとした様子で猫の背中から飛び立つと、バードテーブルの端に止まり、そこからペコッと頭を下げて猫に自己紹介をしました。
「はじめまして。ボクはラディと言います。昨日ここをさすらいのロビンおじさんからテリトリーとして譲り受けました。巣立ちしたばかりの新米ですがどうぞよろしくお願いしま〜す」

「ラディか。俺様はブルーノだ。ここのばあさんとは古いつきあいで、家の中とこの庭の平和を守るのが俺様の仕事だ。おまえの前のロビン、カーシーとはこれといった問題もなくうまくやっていた。おまえともそうありたい。……おまえはロビンの中でもかなりの能天気(はっきり言ってアホ)らしいから前もっていろいろと注意しておく。いいか……」
そう言うと、ブルーノはラディにここでの生活のルールを説明しだしました。ラディはそれをうんうんとうなずきながら真剣な表情で聞いていました。





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