【ロビン、ロビン、ロビン♪ 9】



「わかったか?」
一通りの説明が済むと、ブルーノが確かめるように聞いてきました。
「うん。ばっちり!」
ラディは得意そうに大きくうなずいてニッコリ。
「こまかい注意は全部忘れちゃったけど、結局、ブルーノさんや他の猫さんたちを見かけたら近づかないようにしろってことでしょ? ねっ?」

「あ、ああ、まあそうだ」
『ねっ?っておまえ……。しかも今あれだけ丁寧に注意してやった細かい点は全部忘れたのかよ』
ブルーノは、バードテーブルの端にとまって得意そうにふんぞりかえっているラディをつくづく呆れて見つめました。

『だがまあ肝心なこと一つだけでも覚えていればそれでいいか。他のことは少しずつ経験して覚えていけばいいだろう。どうやらこいつにはいっぺんに複数のことを教え込むのは無理なようだからな』
ブルーノはそう考えると、ラディに向かって
「それじゃ、俺様は今から庭のあっち方面を見回ってくるから、その間おまえはそこの花壇からあっちへは行くなよ。じゃあな」
と、あごで自分の進行方向を指して注意すると、ゆっくりともったいぶって歩き出しました。

「は〜い! わっかりましたぁ〜!」
ブルーノの背後で、ラディの能天気な声が響きました。ブルーノはクスッと笑いながら、振り返ることなくつぶやくのでした。
「まったく、カーシーのやつももっとしっかりしたやつに後を譲ればよかったのに。だがまあ、この新入りは、頭は悪そうだが気は良さそうだ。ばあさんのいい暇つぶしになってくれるだろう」

 ブンブンブン! 元気良く翼を振ってブルーノを見送った後、ラディはホッと大きく安堵の息を吐きました。
「ふぅー! よかった。ここの猫さんがいい猫さんで。で、今はボクはあっちはダメで、こっちならいいんだよな。んじゃ、ちょっとこっちに食後の運動〜!」
ラディは、ブルーノが行った先を確認し、次に反対側に顔を向けると、上機嫌で飛び立ちました。

パタパタパタ。フンフンフン。パタパタパタ。フンフンフン。

 ラディは鼻歌交じりに庭のあちこちを飛び回りました。明るい陽射しと柔らかな風が庭の木々や草花たちを輝かせ揺らしています。色とりどりに咲き乱れる花のあいだを蝶やミツバチたちが行きかっています。そして、花壇と花壇の間に通っている石畳の上には何かを熱心についばんでいる様子の小鳥の茶色い背中が。
「ふ〜ん。…………ん? んんっ? あっ!」
一瞬そのまま見過ごしそうになったラディですが、突然その侵入者の存在の意味に気がつき、すっかりパニックに陥りました。

『ぎぇぇ――っ! いきなりもうボクのテリトリーの危機かよぉ――! ま、負けないぞ』
ラディは、すっかりうろたえて、さすらいのロビンおじさんの忠告も忘れ、その小さな体を隠すこともなく、
「ピッピ、ピピピィー」(ここはボクんちだぞ――!)
と、必死にさえずりながらその石畳の上にいるロビンめがけて急降下を始めました。

「ピッピ、ピピピィー。ピッピ、ピピピィー。……あれ?」
侵入者のそばに降り立ち、そこでラディは初めて相手が自分と同じロビンではないことに気がつきました。
『ありゃりゃ、スズメさんだったのかぁ』

 スズメは、石畳をくちばしで突きながら横目でチラッとラディを見ました。ラディは、咄嗟に上空を見上げ、
「ん〜。今日もいい天気だなぁ」
と、ごまかすようにつぶやきました。それから、初めてスズメの存在に気がついたふりをして、わざとらしくスズメに声をかけました。
「あっ、こんにちは〜。はじめまして、スズメさん。ボク、昨日からここに住んでるロビンのラディといいます。どうぞよろしく〜」

「ああ」
スズメは、ツンツンとつついたまま、くぐもった声で短く返事をしました。

「ねえ、何してるの? そこに何があるの? ねえねえねえ」
ラディは生来の特徴である好奇心の強さをむき出しにして、ピョンピョンピョンと跳ねるようにスズメに近寄って行きました。

                    (↑「夢の都の一番街様」より)
 スズメは困った様子で大きく一つ「はぁ」と息を吐いてラディに言いました。
「単なる食事だ。このあたりに落ちている殻つきの小さな実を食べているだけだ。……わかったならもういいだろ? 邪魔しないでくれ」
どうやら、このスズメは孤独を愛するようです。

 普通ならこんな風に言われたら気を利かせてさっさとその場を離れることでしょう。ですが、ラディにはそんな機転は利きません。
『ふ〜ん。殻つきの小さな実かぁ。おばあさんのくれるエサの方が美味しいのになぁ』
と思いつつ、じっと食事中のスズメを観察しつづけています。

 そんなラディにしばらくは我慢していたスズメでしたが、やがて再び大きくため息をついてラディに尋ねました。
「ふぅ。おまえさん、一体オレにどうして欲しいんだ? ここから去ってもらいたいのか?」

 ラディはスズメの言葉に目を真ん丸くしてビックリ! 慌ててブンブンと激しく首を振りました。
「違う違う。ボクはただ、珍しいなぁって見てただけ。ボク、他の鳥さんが食事しているのを見るのって初めてなんだもん」

「そうか」
スズメはクスッと笑うと、
「それならまた今度ゆっくりと見せてやろう。だが、悪いが今日はそろそろ他の餌場にも顔を出そうと思っていたところなのでな。それじゃ、またな」
そう言い訳をして、ラディをその場に残し飛んで行ってしまいました。
「は〜い。またね〜。ばいば〜い」
翼を振ってスズメを見送りながら、
『えへっ。わーい、新しい友達ができた! うれしいな』
と、上機嫌のラディでした。






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