【ロビン、ロビン、ロビン♪ 7】



ポカポカ。サワサワ。
暖かな陽射しの中、優しい風が葉を揺らす音にラディは目を覚ましました。
「う〜ん、いい気持ち。今日もいい日になりそう」
大きく両翼を広げて伸びをしながらラディはそうつぶやいてにっこり。それから、翼をおなかに当ててキョロキョロとあたりを見回しました。
「おなか空いたな。さて、何か食べよう。何がいいかな?」

 ラディは庭に設置されているバードテーブルの上にストンと降り立ちました。四角いテーブルの半分には赤いレンガ色の屋根がついていてその下には麻の実などの穀物があり、テーブルのもう半分には果物が切って置かれています。そしてテーブルの端には同じく赤い屋根のついた金網の塔が立っていて、中からとてもいい香りがしてきます。

「なんだろう、この匂いは?」
ラディは小首をかしげながらその金網の塔に近寄ると、くちばしで隙間から中をツンツン。そしてその美味しさに目を細めて嬉しそうに言いました。
「甘〜い! うん、美味しい」
それは人間が小鳥たちの為に作った、いわゆるバードケーキと呼ばれるものでした。こんなご馳走まで用意してくれるなんて、本当にこの家のおばあさんは小鳥が大好きなんですね。

 ラディがもう一口と金網の塔をツンツンしていると、家の玄関のドアが開き、おばあさんが中から出てきました。
「あっ、おばあさんだ。挨拶しなくちゃ!」
ラディは、このテリトリーを譲ってくれた親切なおじさんロビンとの約束を守る為と、代替わりをおばあさんに伝える為に、急いでおばあさんめがけて飛び立ちました。

「ピーー、ピピピィ!」(こんにちは〜!)
元気良くさえずりながらおばあさんのもとへやってくると、ラディはその左肩にストン。
「はじめまして、おばあさん。ボク、ラディと言います」
そう言って頭をペコリ。

 それから、まず自分が来た方向を指し、次に片翼をあごに当てておじさんロビンの真似をしたりと、身振り手振りで昨日の出来事の説明を一気にし始めました。
「あのね、昨日ボクお母さんからいきなり巣立ちさせられて、それで自分のテリトリーを探してて、ケディ兄さんからいい場所を譲ってもらってこっちへ飛んできたら、ここでかっこよくて親切なさすらいのロビンおじさんに会ったんだ。それで、おじさんはね今から渡りに出るんだけど、そうするとおばあさんが寂しがるからって、代わりにボクを新しいテリトリーの主に選んでくれたんです。ボク、親切なおじさんの気持ちに応えるためにも、おばあさんと仲良くなれるように頑張りますので、これからよろしく〜!」

 もちろん、この説明はラディのさえずりで行われました。ですから、人間のおばあさんにどこまで伝わったかはわかりません。実際、おばあさんはいきなりロビンが肩に止まってピーチクとにぎやかに鳴きだしたことに驚いているようです。それでも、小鳥好きなおばあさんは嬉しそうに目を細めて、穏やかな声で何か言いながら指先でラディの頭をそっと撫でました。

「あはっ、くすぐったい」
ラディがくすぐったさに思わず羽ばたいて肩から離れると、おばあさんは右手に持っていた半分に切った果物をバードテーブルの上に置いて、ラディを見上げました。
「ん? ボクに?」
ラディは迷うことなくすぐに再びバードテーブルに降り立つと、その果物をツンツン。切り立ての瑞々しい果物は甘くてとても美味しく、ラディは思わずニンマリ。
「お、美味しい〜」

 おばあさんは、そんなラディの様子を満足そうにしばらく眺めていましたが、やがて日課の庭いじりに取り掛かりました。ラディは、もらったばかりの果物をツンツンしながら、横目でおばあさんの様子を見ていました。

 すると、おばあさんはスコップで庭の土を掘り起こりしたり、雑草を抜いたりしながら、時折自分の左横に何かを一塊に集めていきます。
「なんだろう?」
ラディが改めてじっとそれを見ると……。

「うわっ! ボクのえさだ! それもあんなに!」
ラディはおばあさんの横に集められてムニムニと動いている新鮮な生餌たちに向かって大喜びで飛び立ちました。

 それは、ナメクジやカタツムリで、おばあさんは単に害虫をまとめて駆除するためにそこに集めただけだったのですが、ラディにとってはまさにごちそうの山なのです。
「ありがとう、おばあさん。ムフッ、それじゃ、さっそくいただきま〜す」
そう礼を言うと、ラディは大好物のカタツムリを口にくわえました。そして、それを庭の敷石の上に運んで、カツンカツンと叩きつけました。

 カタツムリの殻が割れ、中から柔らかくて美味しい中身が。それをラディは、ツンツン、ゴックン!
「ムフッ! おいし〜い! 次、もう一個!」
こうやって、ラディは朝からカタツムリ三昧の豪華な食事を堪能することができました。

「いいなぁ、ここって。大好きなカタツムリに、果物に、なんかわかんないけど美味しいえさも用意してもらえて。ボクって本当に幸せ者だぁ」
ラディは、こんなにも豪華な食事を用意してくれるおばあさんと、これほどの場所を譲ってくれた親切なさすらいのロビンおじさん、そして、この場所へ来る機会を与えてくれたケディにいさんに感謝の気持ちで、おなかいっぱい胸いっぱいの大満足状態でした。そして、そんな有頂天なラディをおばあさんが優しいまなざしで見つめ、そこから少し離れた場所からは一匹の猫が半ば呆れた表情を浮かべて眺めていました。





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