【ロビン、ロビン、ロビン♪ 6】



 パタパタパタ、ルンルンルン。パタパタパタ、ルンルンルン。
ケディ兄さんから最高の場所を譲ってもらった(つもりの)ラディは、ご機嫌でその場所を探して飛び回っていました。何度「ここは?」と思った場所に先住者がいて断られても、全然気になりません。だって、きっとどこかに安全で美味しいイモ虫どっさりの場所があって、ラディが来るのを待っているはずなのですから。

 そして、お日様がだいぶ傾いてきた頃、ラディはテディ兄さんと会った場所と同じような大きな庭のある家にたどり着きました。
「ここは、どうかな?」
「ピーー、ピピピピピ」(おーい、ここはもう誰かのテリトリーなのぉ〜?)
ラディは、いつもどおりに声をかけました。

 すると、すぐに力強い雄のロビンの声が返ってきました。
「ツィー! ピッピ、ピピピィー」(おう! ここは俺んちだぞ〜)

「そっか」
「ピーチチチ、ピッ!」(了解。お邪魔様〜!)
ラディがそう鳴いて撤退の合図をした時です。ラディは突然その雄に引き止められました。
「ピピピピピッチィ! (ちょっと待て!)」

「えっ?」
驚いて振り返ると、ラディのお父さんロビンよりももっと年上の大柄のロビンが、ラディの方へと飛んできます。でも、その表情は別に怒っているようではありません。
『なんだろう?』
不思議に思いながらラディはとりあえずそのおじさんロビンがやってくるのを待ちました。

 おじさんロビンは、すぐ目の前まで来ると、ラディを頭のてっぺんから足先までじっと観察して言いました。
「ちっこいな、おまえ。まだまだガキって感じだが。それで……おまえ、気はいいのか?」

「えっ? ……ど、どうかなぁ〜? よくわかんない」
突然の質問に、ラディは困った顔をしてポリポリと頭を掻きました。その様子を見つめて、おじさんロビンは目を細めてにっこりと笑いました。
「よし、合格! おまえさんは、かなり性格がよさそうだ。……いいだろう。おまえにここを譲ってやろう」

「えっ? ええぇぇ〜! なんで?」
ラディはびっくりして大きく目を見開きました。ですが、すでに独り決めしたらしいおじさんロビンは、得意気にこの場所の自慢を始めました。
「ここはいいぞ。見ての通り綺麗な庭もあって、美味しい虫も木の実もいっぱいだ。冬になってもこの家に住んでいるばあさんが毎日パンくずなんかをくれるから、一年中えさには事欠かない。それに、ほらそこに俺たち小鳥用のえさ台や水浴び場も用意されている。ここにも猫が飼われているが、そいつの狙いはねずみで、ばあさんに叱られるから俺たちには絶対手を出さない。どうだ、最高の場所だろ?」

「あ、うん。でも……」
確かに聞けば聞くほど理想的な住処のようです。でも、だからこそさすがにおっとりのラディでも不思議に思いました。
「あの……こんな素敵な場所を、なんでおじさんはボクに譲ってくれる気になったの?」
すると、おじさんはフッとキザに微笑み、そして、
「それはな……俺が……平和な生活よりも、自由と孤独を愛するさすらいのロビンだからなのさ」
と言って片翼を上げてポーズを決めました。

「おおおっ! さすらいのロビン! ……なんかよくわかんないけど、カッコイイ〜!」
ラディは、思わず感動で目をうるうる。

 その視線に気をよくしたおじさんロビンは、翼をあごに当ててまた別のポーズを決めながら言いました。
「それでな、俺はいわゆる渡りってやつをやることにしたんだ。まだ見ぬ遥かな地を目指して遠い旅に出るってわけだ。だが、急に俺がいなくなってしまったら、俺との触れ合いをなによりの楽しみにしている(に決まっている)この家のばあさんを悲しませてしまう。それは気の毒だからな。それで、俺の代わりにここに住んで、ちゃ〜んと責任を持ってばあさんの相手をしてくれる気のいいロビンが来るのを待っていたというわけだ」

「そっかぁ。おじさんってカッコイイだけじゃなくて、すっごく優しいんだねぇ。うん、ボク頑張って毎日この家のおばあさんの相手をするよ。約束するよ」
尊敬のまなざしでおじさんロビンを見つめ、ラディは何度も大きくうなずきました。

 おじさんロビンは、そんなラディの様子に、自分の選択は間違っていなかったと満足しました。それで、ラディの頭を軽くポンポンと叩いて、テリトリーの引継ぎを宣言しました。
「よし、今からここはおまえのテリトリーだ。がんばって守っていくんだぞ。……まだおまえは小さい。もし他の雄がやってきたら、絶対に姿を見せるな。声だけで威嚇するんだ。こう、腹に力を入れて低〜い声で、さも強そうに鳴いてな。ピピッ! ツィーッ! ほらやってみろ」

「ピピッ! ツィーッ!  どう?」
「うーん、まだ高すぎる。もう一度!」
「うん。ピピッ! ツィーッ!」
「もう一度」

 こうして、おじさんロビンは、親切にもラディに威嚇の為の鳴き方の特訓までしてくれました。そして、どうにかラディが強そうに聞こえる鳴き方をマスターすると、おじさんロビンは満足そうにうなずき、
「よし。それでいい。……それじゃ、いいか。その鳴き方と、ばあさんの相手だけは忘れるなよ」
そう言い残すと、遥かな地を目指して飛び立っていきました。

「どうもありがとう〜、おじさ〜ん。元気でねぇ〜」
ブンブンと大きく翼を振ってラディは親切でカッコイイおじさんロビンを見送りました。そして、改めて周囲を見回して嬉しそうににっこり笑いました。
「ここがボクのテリトリーかぁ。うん。すっごい素敵。エヘヘ」

 これからここでラディの新しい生活がはじまります。楽しいことがいっぱいだといいですね。頑張れ、ラディ。




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