【ロビン、ロビン、ロビン♪ 4】
「え〜い。どうだ!」
「なにを〜。こっちだって、ほら!」
と、向かい合って互いの翼を広げて見せたり、ロビン特有の赤い胸を膨らませてみたり、口を大きく開いて見せたりで大きさと強さをアピール。でも、ほとんど大きさの変わらない巣立ち直後のケディとラディでは、それではいつまでたっても勝負がつくはずもありません。
「うーん、だめだ。こうなれば力自慢だ。いくぞ、ラディ」
「お、おう」
そう言うと二羽はその細い足で互いを「えいっ、えいっ」と軽く蹴りあいました。その一蹴りが思いの外強くラディの足に当たりました。
『痛ぁ〜! もう、ケディ兄さんたら、本気だして。ひどいよ。……そういえば、ケディ兄さんって時々意地悪だったんだよなあ。せっかくボクがお父さんからもらったイモ虫を途中から引きちぎって横取りしたこともあったし。……ムムッ、なんか腹が立ってきたぁ』
突然子供の頃(と言っても数日前)のイモ虫横取られ事件を思い出してムカッときたラディは、その勢いで自分もつい本気でお兄さんを蹴ってしまいました。
やがて……。
「えいえい、このこのこの」
「あっ、やったなぁ、バカバカバカ」
と、いつしか雛の時の兄弟げんかそのままに夢中になって取っ組み合いをし始めていました。ですが、ここは安全な巣の中ではありません。足を絡ませあったまま、翼を打ち合った二羽はバランスを崩しそのまま地面に落ちてしまいました。
「やめろよぉ。落ちちゃったじゃんか。兄さん」
「おまえこそ離せよ、ラディ」
地面に落ちてもまだ2羽は必死にピーピー騒ぎながら取っ組み合いの兄弟げんかを続けていました。ですが、突然、それは近寄ってきた大きな影によって終止符を打たれました。
ムギュッ!
「ゲッ! 何だ、何が起こった?」
「ひぇっ! わわわわわ」
2羽はいきなり体をつかまれ、相手から引き離されてしまったのです。
人間です!
いつの間にか近づいてきていた人間は、その大きな両手にケディとラディをそれぞれ掴んで、ブハァーーー(実際はハァ〜)と大きく(ため)息を吐きました。
「あ……えっと、何かなぁ〜?」
「うわぁ〜、大き〜い」
2羽はキョトンとした顔で人間を見上げました。両親の教育不足でしょうか、それとも持って生まれた性格のせいか? ケディとラディどちらも全く人間に対する警戒感もこの状況への危機感も持っていないようです。
やがて、人間は何か言いながらゆっくりと手を持ち上げ、2羽を掴んでいる手を開きました。
パタパタパタ。その瞬間、兄のケディはさっさと舞い上がり上空に逃げました。そして、弟のラディはというと、その様子をポカーンと見送っていましたが、兄から
「お〜い、何ボケ〜っとしているんだ? (たぶん)邪魔だって言われたんだから、さっさとこっちに来いよ」
と呼ばれ、
「あっ、そうなんだ。は〜い!」
と、ようやくパタパタと飛び上がるおっとりぶりでした。
2羽は近くの木の枝に並んで止まると、庭の人間を見下ろしながら言いました。
「驚いたね、兄さん」
「ああ。何が起きたかと思ったよ」
その時です。上から突然半分呆れて半分怒ったような声がしました。
「『驚いたね』じゃないわよ。見ていたこっちの方が、死ぬほどびっくりしたわよ。あんたたち、もっとしっかりしなさい!」
「えっ?」
「わっ! なに?」
驚いて声のする方を見上げると、そこには1羽のアオガラのおばさんが、不機嫌そうにケディとラディを見下ろしていました。
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