【ロビン、ロビン、ロビン♪ 2】



 さて、お母さんロビンから突然の巣立ちをさせられたラディは、巣から程近い木の枝の上で一休みしながら、まだどっちに向かうか決めかねてうろうろチョロチョロしていました。すると、お父さんロビンが大声でラディの名前を呼びながらパタパタと飛んできました。
「お〜い、ラディ〜!」

「あっ、お父さんだぁ。わ〜い! こっちこっち〜!」
ラディは嬉しそうに翼を振ってお父さんロビンがやってくるのを待ちました。

 お父さんロビンは、ラディのところまでやってくると、いきなりヒシッとラディを抱きしめて言いました。
「もう二度と会えないかと思って驚いたぞ。だがこうして会えた。これもきっと父と子の愛の力だな。息子よ!」

『そ、そうか? まだ巣からほんのちょっとしか離れてないし。……この距離で会えなかったら、その方が問題かも……』
ラディはそうこっそり小首をかしげましたが、再会の感動に浸っているお父さんロビンにはとても言えません。とりあえず、ここは素直に同意することにしました。
「うん。お父さん」

「まったく、お母さんにも困ったものだ」
お父さんロビンは、再会のヒシッの後、木の枝にラディと並んで止まり、片方の翼でラディを抱いたまま愚痴りはじめました。
「いつものことながら、突然思いつきでさっさと独り決めしてしまうんだからなぁ。せっかくお父さんが可愛いおまえたちに食べさせてやろうと、苦労してまるまると太ったと〜っても美味しそうなイモ虫を捕まえて来たというのに。帰ったら肝心のおまえたちの姿がない。どれほど驚いたか」

『まるまると太ったと〜っても美味しそうなイモ虫だってぇ〜!』
お父さんが放ったあまりに魅惑的な言葉にラディは思わずつばをごっくんと飲み干しました。イモ虫はラディの大好物だったのです。
「お、お父さん。そ、それで、そのまるまると太ったと〜っても美味しそうなイモ虫はどうなったの?」
うわずった声でラディはお父さんロビンに尋ねました。

「ん? そりゃ、巣に置いてきたから、今頃お母さんの腹の中だろうな。お母さんはそういうとこ、全然遠慮がないからな。それにしても、あのお母さんは……」
そう言ってお父さんはまた愚痴を続けましたが、それはラディの耳には入ってきません。ただ、まるまると太ったと〜っても美味しそうなイモ虫がすでに母によって食べられてしまったということが、取り返しのつかない悲劇としてラディの心を打ちのめすばかりです。
『ガ〜〜ン! く、食われちゃったのかよ。ボクのイモ虫……』

「お、お父さん。ボク、もっと早くお父さんに戻ってきて欲しかったよ。(そしたら、そのイモ虫が食べられたはずだもん)」
目に涙を浮かべ、ラディはお父さんロビンを見上げてそう言いました。お父さんロビンは、ラディのそのウルウルとした瞳に感動し、再びヒシッとラディを抱きしめました。
「お父さんもだよ、ラディ。おまえたちが巣立っていく瞬間をちゃんとそばで見守ってやりたかったし、餞別にうまいイモ虫を腹いっぱい食べさせてやってから送り出したかった」

「うん。お父さん。ボクも。(美味しいイモ虫をお腹いっぱい食べたかった)……あの、もしよかったら(今からでもいいよ。その餞別)」
そう言い掛けたラディでしたが、それより早くお父さんロビンがピッと耳を澄ませ、それから嬉しそうに言いました。
「おっ。あの鳴き声はセディだ。あの子もまだこの近くにいるのか。そかそか」

 お父さんロビンは、パッとラディを放すと、
「それじゃ、おまえも元気でな。頑張るんだぞ」
そう言って、ラディのお兄さんの鳴き声のする方へパタパタと飛んで行ってしまいました。

「へっ? あっ、待って、お父さん(というか、イモ虫)……」
振り返りもせず去っていく父の後ろ姿を呆然と見送った後、ラディがガックリとその場に翼をついてつぶやきました。
「食べたかったな……まるまると太ってと〜っても美味しそうなボクのイモ虫」

 しばらくそうやって落ち込んでいたラディでしたが、やがてそれにも飽き、ムクッと立ち上がるとポリポリと頭を掻きながら言いました。
「ま、いつまで嘆いていても無くなったイモ虫が返ってくるわけじゃなし。ここは前向きに頑張りますか。うん。せっかく巣立ちしたんだから、これからは自分の力で美味しいエサを見つけていこう。それに、今までと違って、イモ虫でも木の実でもなんでも全部ボクが食べていいんだ。お兄さんたちと4等分しなくてもいいんだ。うわっ、ひょっとして、これってすごくないか? むぅ〜、なんか急にやる気が出てきたぞ〜!」

 ラディは突然イモ虫食べ放題の野望に燃えだしました。
「それにはとにかく美味しいイモ虫のいっぱいいる場所を探さないとな。そして、そこをボクのテリトリーにしないと。スンスン。うん、こっちの方からいい匂いがする……気がする。こっちにしよう! さあ、お兄さんたちもいるし、こうしちゃいられない。急げ、急げ」

 こうして巣立ったばかりの若いロビン・ラディは、美味しいえさいっぱいのテリトリーを探すために、いい匂いのする気がする方角へとパタパタと元気よく飛び立っていきました。

 うまく見つかるといいのですが。頑張れ、ラディ!




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