【ロビン、ロビン、ロビン♪ 1】



 その日の朝、お母さんロビンは巣にいる雛たちに突然宣言しました。
「あっ、そだ。忘れてた! 急で悪いけど、あなたたち今日で巣立ちよ。ここはお父さんとお母さんのテリトリーだから、あなたたちはここを出て、自分のテリトリーを見つけてね。それじゃ、みんな頑張ってね。はい、解散! レッツ・ゴー!」

「ヘッ?」
「うそぉ〜! マジ?」
「あの顔は……たぶん本気」
「うん。お母さんなら言いかねない」

 母鳥からのいきなりの出て行け命令に、4羽の雛たちはびっくりして巣の中で互いに顔を見合わせヒソヒソヒソ。

「いくらなんでも急すぎるよな」
「そうそう。いっつも思いつきで独断で決めてさ」
「まいるよな」
「うん。……でもどうする? あの顔は絶対にもうボクたちにえさをくれるつもりはなさそうだぞ」
「だよな。……仕方ない。このさい、諦めて出ていくか」
「うん。それしかないね」

 結局4羽の雛たちはお母さんロビンからの突然の巣立ち命令を受け入れ、それぞれが自分の住む場所を探して飛び立っていくことにしました。

「それじゃ、お母さん、さようなら〜」
「はい。さようなら。頑張ってね」

「今までどうもありがとう」
「はい。どういたしまして。元気でね」

「ばいば〜い」
「はい。ばいばい。気をつけてね〜」

 雛が飛び立っていく度に、お母さんロビンはブンブンと元気良く翼を振って子供たちを見送りました。そして、最後まで巣に残っている一番小さい雛のラディを急き立てて言いました。
「ほらほら。おまえももう出発しなさい。のんびりしているとそれだけ良いテリトリーを誰かに取られちゃうわよ。ガンバ、ガンバ!」

 ラディは巣の中から目を瞑って四方をスンスン。匂いをかいで、一番いい匂いのする方向を決めている途中でした。それで目を開けて初めて兄弟がみんな巣立っていってしまっていることに気がついてびっくり。
「わっ! 遅れた!」
と、慌てて巣から飛び出していきました。けれど、巣から少し行ったところでお母さんロビンにお別れの挨拶を済ませていなかったことに気がついて、すぐに引き返してきました。
「あ、それじゃ。ども。お母さんも元気でね」
そう言ってピョコンと頭を下げて一礼。お母さんロビンもにっこり笑って
「おまえも元気に頑張るんだよ」
と答えて翼を振りました。

 こうして子供たち全員を無事見送って巣立ちさせると、お母さんロビンは満足そうに大きく「うんうん」とうなずきました。
「よかった。初めての子育てもちゃんと無事にできたわ。なんだ、やってみれば意外に簡単だったわね。もう、お母さんたらあんなに散々難しいって注意してたくせにぃ」
お母さんロビンは、かつて自分が母鳥から受けた注意を思い出してぶつぶつと文句を言いました。

 そこへ、ちょうど子供たちの為に虫を咥えたお父さんロビンが戻ってきました。
「ん? あれ? ……子供たちは?」
お父さんロビンは、巣の中に子供たちの姿が見えないことにびっくり。えさを咥えたままお母さんロビンに尋ねました。

『えっ? あっ、そっか、忘れてた!』
お母さんロビンはその時初めて、夫の留守中に勝手に子供たちを巣立ちさせてしまったという自分の失敗に気がつきました。それで、慌てて翼をあたふたと振りながら言い訳をはじめました。
「あ、あの、ほら、今日はとってもいい天気だし。子供たちが巣立ちするにはうってつけだなって思って。それで、さっきあのみんな元気に……バタバタって、その……」

「はぁ」
お父さんロビンは、からっぽになっている巣の中に子供たちに与えるはずだった虫をポトッと落として、大きくため息を吐きました。
「つまり……おまえさんは、俺のことをすっかり忘れて勝手に子供たちを巣立ちさせてしまったというんだな」

「あ、あはははは。まあ、簡単にいうとそうなんだけど……。あ、でも大丈夫よ。ほら、あの子たちまだ子供だから、そんなに遠くにまで行ってないし。しばらくはその辺飛びまわっているだろうから、すぐにまた会えるって。ねっ!」
『ねっ、じゃないだろうが』
お父さんロビンは、お母さんロビンの説明に当然納得できるはずもなく、せめて今からでも父親らしい別れのせりふを決めたいと、子供たちを捜しに飛び立っていきました。

「失敗、失敗」
頭を掻きながら夫の後ろ姿を見送っていたお母さんロビンでしたが、ふと足元を見ると夫が落としていった虫がムニムニ。お母さんロビンはムフッと目を細めてにんまり。
「子供たちも巣立ちしちゃったし……これは私が食べてもいいわよね」
そう言うと、お母さんロビンはその虫をパクッと一飲み。そして、とても幸せそうに大きくうなずきました。
「うん、美味しい」



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