【有翼狼の伝説 第一章・蒼き翼を持つ者 9

それから、テアは視線を遠くの山へと移した。
「もし彼の心の中に私がいて、その為ここを去ることに少しでも迷ってくれていたのなら、今頃私は彼の後を追ってあの山の向こうを走っているわ。
追いつけるかどうかはわからないけれど、少なくとも間違えずに後を追う自信はあるもの。
これでも鼻はいいのよ。
……ねえ、アマデオ、あなたたちは私をか弱い守ってやらねばならない存在だと思い込んでいるようだけど、それは違うわ。
私は狼よ。ウサギやリスじゃないもの。自分の身は自分で守れるわ。
あなたたちに負けないくらい早く走る足も、獲物を引き裂く鋭い牙も持っているんだもの。
そして……自分のことは自分で決める意志もね。
だから……」

 そこでテアはアマデオを振り返り、にこりと笑うと、きっぱりとした口調で言った。
「だから、私は彼を追わない。
彼の心が自分自身と遥か遠くの何かにしか向けられないものなら、私が彼を追う意味がないもの。
彼がその心の翼を広げてどこまでも遠くへ走り抜けていくのを望むなら、その邪魔はしたくない。
……私はここで、私の意志で自身の幸せを見つけようと思う。
いいえ、見つけるわ」

「それに…アマデオ、私はどこまでも遠くを求める者だけが翼ある者だとは思わないわ。
みんなとお互いに助け合って群れを守り、その中で新しい命を産み育て、その血を繋げていく。
そんなごく普通の生活を守る為にも翼は必要だわ。
お互いを守りいつくしむ為の大きな心の翼がね。
だから、どちらが優れているとか劣っているとかじゃなくて、ただ持っている翼の種類あるいは使い方が違っているだけなんだと思う。」

 それから、テアは再び視線を遠くの山へ移してつぶやくように言った。
「ねえ、アマデオ。
私たちの翼は飛べない代わりに安らぎを与えてくれるわ。
でも、エアハルトの翼は高く飛べる代わりに孤独も与える。
彼の孤独は……どうやって癒すことができるのかしら?」
寂し気な表情を浮かべてそのまま黙り込んだテアを、アマデオも黙ってじっと見つめていた。






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