【有翼狼の伝説 第一章・蒼き翼を持つ者 7

 夜が明け、エアハルトが出て行ってしまったことに気づくと、群れの中に動揺が走った。
だがそれも、大半の者がおおよそ予想していた事態だったことと、
フォルカーの
「エアハルトは自分の行くべき道を見出し歩き出しただけだ。騒ぐでない」
の一言に、各々内心不安を抱きつつも、一応の落ち着きを取り戻した。


 アマデオはテアを誘い、いつもエアハルトが空を見上げていた岩場に立った。
アマデオはエアハルトがそうしていたように空を見上げた。
そして、ひどく寂しそうな瞳をしてつぶやいた。
「……行ってしまった。
やつがいつも眺めていたあの空の向こうへと。
やつは……なにを見ていたんだろう? 俺には、わからない」
それから、そのまま遠くの空を見上げたまま、テアに言った。
「俺はいつかこんな日が来るんじゃないかと恐れていたよ。
だが、それと同じくらい、望んでもいた。……すまない、テア」

「それは?」
いぶかしそうにテアが尋ねると、アマデオは少しためらった後、テアを振り返り言った。
「俺は、昨夜やつが起きだした時、目を覚ましていたんだ。
だが、俺は…やつを引きとめなかった。
…俺は、君がやつを慕っていることはわかっていたから、ずっと君の為にやつにここに残って欲しいと思っていた。それは本当だ。
だが……やつが、やつの心が、俺たちから遠く離れた何か、俺たちにはわからない何かを求めていることにも、気づいていたんだ。
だから、やつがいなくなって君が悲しんでいるのをわかった上で、俺はホッとしてもいるんだよ。やつが、自分の生き方を見つけ、それに向かって走り出すことができたことに。
……テア、可哀想だけど、やつのことは諦めた方がいい。
やつはもうここへは帰ってこない。やつは俺たちとは違う。やつは……」
そこで、アマデオが言い淀むと、テアは大きく一つため息を吐いてわかっているというふうにうなずいた。
「それ以上言わなくてもいいわ、アマデオ。父から聞いたから。
…彼は、エアハルトは翼のある狼、有翼狼なんでしょ。
私たちと違い、ひとところでの安定を求めない。
どこまでも果てしない遠くを求める。その姿同様に、その心にも翼を持つ者だと」

「……そうだ。俺も昨夜、そのことを君の父上から初めて聞いたんだ。だから、俺は」
「アマデオ、待って。お願い、今度は私に話しをさせて。
お願いだから、最後まで黙って聞いてくれない?」
テアがアマデオの言葉を遮ってそう言うと、
「…わかった」
と、アマデオはうなずいた。

「ありがとう」
テアは、礼を言うと、どう話し始めようかと少し首をひねって考え込んだ。
だが、やがて小さくうなずいて話し出した。
「ねえ、アマデオ。
今回のことで、父やあなたそして彼が私のことをどう思っているのかよくわかったわ。
皆、私の幸せを考えてくれた。そのことは感謝しているのよ。
でもねえ、あなたたち雄は、肝心のところで私たち雌のことを理解していないのよ」




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