【有翼狼の伝説 第一章・蒼き翼を持つ者 5

『あぁ……』
「やはり、お気づきだったのですね、フォルカー。
私のこの背にある忌まわしい異形の印に。
そうではないかと……思っておりました」
エアハルトはがっくりと気落ちした様子で、顔を伏せた。
すると、フォルカーは突然厳しい声でエアハルトを叱った。
「何を言う。その翼が異形の印などであるものか。
愚かなことを申すな、エアハルト!」

「えっ?」
フォルカーの突然の剣幕にエアハルトは驚いて顔をあげた。
そんなエアハルトを見て、フォルカーは自分自身の感情の昂ぶりに少し照れた様子で苦笑した。
それから、首を振り、諭すようにエアハルトに言った。
「そうではない、エアハルト。その翼は決してそのような禍々しいものではないのだ。わしは、そなたの持つその翼を厭うてはおらぬ。
エアハルト、そなたのその翼は……心に翼ある者の証。己が翼に誇りを持て」
「心に翼……ですか?」
「そうだ。………来い、エアハルト」
そう言うと、フォルカーはゆっくりと歩き出した。
エアハルトは黙ってそれに従った。

 しばらくの間、2頭の狼は黙って夜の森を歩いていたが、やがてフォルカーは、木々が途切れ月明かりの射し込む少し開けた場所で立ち止まった。
そして、エアハルトを振り返り、顔で月を指し示して尋ねた。
「あの月を見て、そなたは何を思う?」
言われて、エアハルトは空を見上げ、その月の美しさに見とれるように目を細めた。
「美しい…と。そう思います」
「それだけか?」
「何故他の星々と違って、あれほど大きく輝くことができるのだろう?と。
何故、夜毎その姿を変えるのだろう?と。」
「それから?」

「それから……どこから昇りどこへ沈むのか? 
何故、毎夜同じ方角から昇ることができるのか? 
昼、太陽が輝く時、月はどうしているのか? 
それから…それから…きりがありません、フォルカー。
私の中で次々と疑問が生まれて来て……」
そう言ってエアハルトは困ったように首を振った。
フォルカーは笑って大きくうなずいた。
そして、エアハルトと同じように目を細めうれしそうに月を見上げながら言った。
「そうだな。月ひとつにしても、知りたいことがたくさんあるな。
……だがな、エアハルト。そんなことを考えるのはそなただけだ。
他の者はそのようなこと考えもしない。
月はただ月としてそこにあるだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
何も思い煩う存在などではないのだ」


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