【有翼狼の伝説 第一章・蒼き翼を持つ者 4


 その日の猟は壮観だった。
老いたとはいえ、その全身を月明かりで蒼く輝かせながら遠吠えで仲間を集めるフォルカー。
大きな角を持つオスのヘラジカを、その俊敏な動きと獰猛さで逃げ場を奪い、仲間の待ち伏せしている場所へと追い詰めたエアハルトやフレートたち。
そして、その巨体が疲れ果てるまで仲間が包囲挑発した後、真っ先にその喉元に鋭い牙で噛み付いたのは、やはりエアハルトであった。
群れの仲間は改めてエアハルトのその勇猛さに敬服の念を抱いた。
そして、これほど勇敢で頼もしいエアハルトではなく、今回の猟でもさしたる活躍もみせなかったアマデオが次のボスに選ばれたことに、皆内心困惑していた。

 だがすぐに皆、大物の獲物による饗宴に夢中になり、一時そのことを忘れた。
そして、数時間後には、群れの全員がその腹を満たし、各々心地良い眠りに落ちていった。

 皆が寝静まった頃、エアハルトはふいに起きあがった。
そして、皆を起こさぬように注意しながら、そっとその場を離れた。

 エアハルトが、群れの縄張りの境界近くまで来た時、あたかもエアハルトがここに来ることがわかって待っていたかのように、突然木陰からフォルカーが姿を現した。
「行くのか?」

「フォルカー!」
エアハルトは一瞬驚きの声をあげたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻ってうなずいた。
「はい。その方が皆の為ですから」
「そうか。
……そうだな。初めからこうなるとわかっていて、アマデオを次のボスに選んだのはわしだったな…。
だが、エアハルト、わしはそなたに謝るつもりはないぞ。
わしの判断は間違ってはおらぬ。
誰の為にもこれが一番良かったのだ。
わしはそう信じている」
フォルカーがじっとエアハルトの眼を見つめながらそう言うと、エアハルトは笑ってうなずいた。
「はい。私もこれでよかったのだと思っております。 
……それでは、フォルカー、お元気で。
それと、あの、テアに、どうか幸せにと……」
エアハルトはフォルカーに別れを述べ、そのまま立ち去ろうとした。
だが、次のフォルカーの言葉が、エアハルトの足を止めさせた。
「そなたが…………でさえなかったなら」

「えっ? フォルカー、今、なんと?」
驚いた表情で振り返ったエアハルトの瞳には、明らかに動揺の色があった。
フォルカーは、そんなエアハルトを労わるような優しいまなざしで見つめ、静かに言った。
「そなたが……『翼ある者』でさえなかったなら、と言ったのだ、エアハルト。
…そなたのその背の毛並みが少し乱れて見える2箇所。
それはごく小さいとは言え『翼』であろう? 
そなたは、翼を持つ狼、有翼狼なのであろう?」



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