【有翼狼の伝説 第一章・蒼き翼を持つ者 2


 その後、フォルカーがアマデオを連れ、ボスとして心得を伝授するためにみなから離れると、群れの狼たちはようやくこのフォルカーの意外な決定について話し出した。 
「何故、アマデオなんだ? 誰が見たってエアハルトの方が優れているじゃないか」
「ああ。確かにアマデオは思慮深く思いやりもある。
だが、ボスとして群れを率いていくには、力強さに欠けている。
その点、エアハルトなら勇敢で頼りがいもある」
若い2頭の狼がそう言うと、横から幾分年かさのガルクが皮肉っぽい口調で口を挟んできた。
「案外、それがエアハルトをボスにしない理由かもな。妬みってやつさ」

「妬み?」
驚いたように聞き返す他の狼たちをガルクは得意げに見回して言った。
「つまりあんまりエアハルトができすぎるのが逆にフォルカーの気に入らないってことさ。
このところのフォルカーはすっかり年老いて盛んな頃の面影もない。
その分、代わって群れを支えているエアハルトへの皆の信頼は高まっている。
このままでは、いずれボスの地位をエアハルトに奪われるのは目に見えているだろ。
だが、おとなしいアマデオを自分の娘のテアの伴侶として新しいボスに迎えれば、引退後も長老として権威を保つことができるってことさ」

「そうか。フォルカーにとってエアハルトは脅威だが、アマデオなら自分の傀儡にできるってことか」

 ガルクの言葉に他の者たちが納得しかかったその時、突然、それまで黙って会話を聞いていたフレートが怒りを含んだ声で言った。
「愚かなことを言うな。
フォルカーともあろうものが、そのような姑息な意図で次のボスを選ぶはずあるまい。
…ガルク、お前は自分のボスをそんな目で見ていたのか?」
フレートに睨まれ、ガルクはあわてて顔を伏せ、その身を隠すようにすごすごと後ずさりをした。

 フレートは、そんなガルクに腹立たしそうに舌打ちした後、ゆっくりと仲間たちを見回して言った。
「皆も考えてみろ。
これまでフォルカーがどれほど皆の為に尽くしてきたかを。
フォルカーの知恵と勇気あればこそ、我らこうして平穏に暮らせてきたのではないのか? 
そのフォルカーが今になって我らの信頼を裏切るはずないではないか。
此度のボス譲渡の決断も、きっと何か深き考えがあってのことに違いあるまい。
我らはただフォルカーを信じて従えばよいだけのことだ。それに……」
フレートはそこで一旦言葉を切ると、上方の突き出た岩場を見上げ、やがて、声を落とし、あたかも自分に言い聞かせるかのように続けた。
「此度の決定に一番衝撃を受けたのはエアハルトだろう。
そのやつでさえ、黙ってフォルカーの意志に従うと決めたのだ。
我らが口出しすべきではない」
そう言うフレートの視線の先にある岩場には、静かに空を見上げているエアハルトの姿があった。



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