【有翼狼の伝説 第一章・蒼き翼を持つ者 1


 ヴァルトの山。そこに住む狼の群れを率いるフォルカーも年老いた。フォルカーは、次の世代にその地位を譲り引退することを決意した。

その日、フォルカーは群れの全員を集めて言った。
「わしはもう年老いた。アマデオをわが娘テアと娶わせ、新らたな群れのボスとしようと思う。どうだな?」
だが、いつもはフォルカーの言葉にすぐに同意する群れのメンバーたちも、今回はみな押し黙ったままだった。

「気に入らぬのか?」
フォルカーが尋ねると、しばらくしてテアがためらい勝ちに口を開いた。
「あの…何故、アマデオなの、お父様?」
「アマデオでは不服か?」
フォルカーが聞き返すと、テアはちらりとある一頭の若い雄狼エアハルトを横目で見た後、顔を伏せ、再び押し黙ってしまった。
フォルカーは、その様子を幾分困ったように見つめていたが、やがてフォルカーが声をかけたのはエアハルトではなくその隣のアマデオにであった。

「アマデオ、そなたの意見はどうだ?」
すると、アマデオはひどく困惑した表情を浮かべて言った。
「あまりに突然のことなので。それに……あの……やはり私よりエアハルトの方が、遥かに群れのボスにはふさわしいと思います」
アマデオの返事に賛同するように、群れにざわめきが起こった。
群れの誰もがみなアマデオと同じ意見を持っていたからである。
実際、年老いて力のなくなったフォルカーを助け、狩りの指揮を執り、大物の獲物にも真っ先にその牙を突き刺すのは、いつもエアハルトであった。
その勇敢さ、判断力、知恵のどれをとっても、他の若い雄狼たちに勝っていた。
また、そのたくましい体つき、美しい毛並み、そして何よりその澄んだ空を思わせる青い瞳が、テアをはじめ群れの雌狼たちの憧れとなっていた。

だが、フォルカーはゆっくりと首を振りながら言った。
「いや、わしには、エアハルトよりそなたの方が群れのボスには適任に思える」
「ですが…」
尚も反論しようとするアマデオの言葉をさえぎるように、フォルカーは今度はエアハルトに向かって尋ねた。
「そなたはどう思っているのだ、エアハルト?」
聞かれて、エアハルトは穏やかな表情でフォルカーの目を見つめ返し、静かに答えた。
「この群れのボスはあなたです、フォルカー。
あなたがそう判断されたのなら、私はそれに従います。
そして、あなたが選んだ新しいボス、アマデオにもまた忠実に従うとお約束いたします」
「それで不服はないのだな?」
確かめるように聞き返すフォルカーに、エアハルトはうなずいた。
「はい。群れはボスの命令には絶対服従をする。それが…掟です。」
そう答えるエアハルトの表情からは少しの不満の色も見出すことはできなかった。

「よし。ならばこれで決定だ。
幸い、明日は満月だ。
明日の夜、アマデオとテアの婚儀と同時に、群れのボスの引継ぎの儀式を行うこととしよう」
そう言って満足気にうなずくフォルカーとは対照的に、群れの狼たちの表情には困惑の思いが色濃く浮かび上がっていた。


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