【モーランの頼み 3】


 しばらくして、イルカの子供たちが再び元気よくガヤガヤとにぎやかにやってきました。
「マンボウじいさ〜ん、リーダーに聞いてきたよ〜!」
「うん。カンショーはあっちだって!」
「でも、自分たちなら一日かからずに行けるけど、マンボウじいさんだともっとかかるかも知れないってさ」
「そそ。それでボクたちがマンボウじいさんの泳ぎを助けてあげたいって言ったら、まだまだ子供だから頼りない。一緒に迷子になるだけだって言われちゃった。エヘッ」
「うんうん。だからオトナのデルフィンが一緒に行ってくれるって。……あ、来た!」

 子供たちの言う通り、やがて一頭のまだ若そうなおとなのイルカが近寄ってきました。そのイルカはマンボウじいさんのすぐそばまで来ると気の良さそうな笑顔を見せて挨拶してきました。
「やぁ、こんにちは。いつもチビたちの遊び相手になってくれてありがとう。オレはデルフィンと言って、こいつらの兄貴分みたいなものかな」

「ああ、こんにちは、デルフィン。わしはマンボウのモラモーラだ。みんなはマンボウじいさんと呼ぶがな」
マンボウじいさんがそうデルフィンに返事をすると、イルカの子供たちは驚いた顔をしてお互いを見合いました。
「マンボウじいさんに名前ってあったんだ!」
「うん。モラモーラだって!」
「うわっ、初めて聞いたぁ」
「うん。びっくり!」

 それから、イルカの子供たちは一斉にマンボウじいさんを取り囲んで不満そうに質問攻めにしました。
「ねえ、マンボウじいさん。どうして今までボクたちには教えてくれなかったの?」
「そうだよ。ボクたちいつも仲良く遊んでいたのに」
「うんうん。サメに齧られたフィンフィンの尾びれを治してくれた時だって」
「そうそう。迷子の蝶々さんたちを仲間に返してあげる時だってあったのに」
「そうだよ。ボクたちには内緒で、デルフィンさんにだけ教えるってズル〜イ!」

 マンボウじいさんは、そんなイルカの子供たちの声に、いつもののんびりとした様子で「ハテ?」と少し考えながら答えました。
「フム。別におまえさんらに隠していたわけではないぞ。強いて言えば……言う必要がなかったといったところかな。マンボウじいさんで通用するし、だいたいおまえさんらに聞かれた覚えもないしのぅ。おまえさんらもいちいちわしに名乗ったりなんかしなかっただろ。わしもおまえさんらの中で名前を知っているのは、そこのほれ、尾びれを治してやった坊やだけだぞ」

「あっ、そうか!」
マンボウじいさんの返事にイルカの子供たちはハッとした顔をし、次にニッコリと笑って我先にと名乗り始めました。
「ボクボク、アイフィン。覚えてね」
「あ、ボクも。ボクはキフィン」
「ボクはドゥフィン。いい名前でしょ」
「わぁ〜ん。ボクも〜。ボク、ゲオフィン」
「えへへ。ボクは知ってるよね。もちろんフィンフィンさ」

「わかったわかった。だがいっぺんに言われても覚えきれないぞ。またわしが戻ってきた時に改めて教えてくれ。今は環礁に閉じ込められている仲間のマンボウを助けに行かねばならないのでな。……それでは出かけようか、デンフィン」
「……デルフィンです。はい。では出かけましょう」
デルフィンはもう名前を間違われて少し困ったように笑ってマンボウじいさんに言い直した後、子供たちに声をかけました。
「それでは、行って来る。オレが戻るまでおとなしくして、あんまり群れのみんなに迷惑をかけるなよ。それに、遊んでばかりいないでそろそろイワシの群れを集める手伝いもしろよ」

「は〜い! 行ってらっしゃ〜い!」
「うん。留守中はちゃんとお手伝いするから安心して」
「うんうん。だからデルフィンもマンボウじいさんも無事に帰って来てねぇ〜」
「ついでにカンショーに閉じ込められてるマンボウさんにもよろしく〜」
「で、もっとついでに鳥さんも気をつけてねぇ〜」
イルカの子供たちは口々にそう言って、胸ビレで海面を叩いたり、少し跳ねたりしながらマンボウじいさんたちを見送りました。

 シェルンは『なんかボクだけついでのついでだったような……』と少し不満に思いながら、デルフィンの案内で泳ぎだすマンボウじいさんの後を追いました。

 そして、その後ろでイルカの子供たちが顔を見合わせてこそこそと相談を始めました。
「でもさ……やっぱり見てみたくない? マンボウじいさんが魔法使うところ」
「うん。見たい」
「ボクも! ……ついてっちゃおうか?」
「でも、叱られない?」
「みんな一緒だから叱られてもいいや」
「うんうん。仲間だもんね」
「そうそう。仲間!」
「じゃあ、決まり! えへっ」
「えへへへへ」

 結局、イルカの子供たちは好奇心に負け、こっそりマンボウじいさんたちの後をついていくことにしたようです。







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