【モーランの頼み 4】


 マンボウじいさんたちの姿が見えなくなる前に、待ちきれない様子でフィンフィンが言いました。
「もういいんじゃない? ボクたちもそろそろ行こうよ」
すると、子供たちの中では一番しっかりしていると自分では思っているアイフィンが、オトナたちの真似をして少し重々しい口調で首を振りながら言いました。
「いや。まだ早いよ。たぶんオトナたちはボクたちがマンボウじいさんの後を追っていくんじゃないかと心配して今もこっそり見張っているはずだ。だからすぐに動いたら連れ戻されちゃうよ。……もう少し我慢しないと」

「そっかぁ。すごいなぁ、アイフィンは」
そう言ってフィンフィンが感心したようにうなずくと、アイフィンは途端に今の威厳もどこへやら目を細めて照れくさそうに笑ってしまいました。
「エヘッ。そう? だってさぁ、それがボクたちのいつもの行動パターンだから、きっと見透かされていると思ってさ。相手はボクたちより賢いオトナだし」

「うん。オトナは賢いもんなぁ」
「でもそのことに気がつくアイフィンもすごいよ」
「そうそう。さすがに一番怒られ慣れているだけはある」
「うんうん、ボクたちの中で迷子になった回数も一番多いしね」
「うん。さすがさすが」

「エヘヘ。まあなにごとも経験が物を言うってやつかな?」
「そうそう。経験、経験」
「うんうん。プププッ」
「ププッ。フフフ。エヘヘへへへヘ」
イルカの子供たちはお互いの顔を見合わせて面白そうに笑い出しました。

 その時、少し離れた海面をトビウオが跳ねました。それをすばやく見つけたキフィンが嬉しそうに叫びました。
「トビウオだ! ボク、あれやってみたい。下からあーんってやつ」
「あ、ボクもボクも」
続けてフィンフィンもそう叫びました。それはオトナたちがよくトビウオを食べる時の方法で、仰向けになって泳いでトビウオを追いかけ、落ちてきたところをあーんと大きく口を開けてパクリとやるのです。デルフィンたちオトナはいつもとても簡単そうにやるのですが、子供たちにはこれがなかなか大変で、タイミングが合わず失敗してしまうことが多いのです。

「そっか。じゃあ、ボクがトビウオが横に逃げないようにそばで跳ねてあげるよ。そんなにお腹も空いてないし」
ゲオフィンがそう言って協力を申し出ると、続いてアイフィンとドゥフィンもウンウンとうなずきました。
「ボクもいいよ」
「うん。ボクも。それにあっちはちょうどマンボウじいさんたちが行った方向だから都合がいいよ。トビウオを追いかけてるとオトナたちも思うだろうし。……そのまま出かけられるよ」

「そっかぁ。それは名案だね。それじゃさっそく始めようよ」
「うん。わ〜い、トビウオ、待てぇー!」
イルカの子供たちは大はしゃぎしながら一斉にトビウオを追いかけていきました。

 まずは、言いだしっぺのキフィンが仰向けになって背泳ぎでトビウオを追いかけ、他の子供たちがトビウオの両側と後ろを跳ねるように泳いで追いかけることになりました。

 バシャバシャとわざと大きく音を立て水しぶきをあげながらフィンフィンたちが跳ねるように泳いでトビウオの警戒を自分たちに向け、水中ではワクワクしながらキフィンがトビウオの落ちてくるタイミングを狙っています。でもトビウオは1度の滑空で100mから長い時で300mも飛ぶため、いつ落ちてくるのか経験の浅いイルカの子供たちにはまだよくわかりません。そのうえ、イルカの子供たちにとっては遊び半分の漁ですが、トビウオにとっては命がけ。当然必死に逃げます。

 結局、数回チャンスがあったものの、もう少しというところでタイミングを外し、逃げられてしまいました。

「あ〜あ、逃げられちゃったぁ」
残念そうにトビウオを見送るキフィンに、他の子供たちが言いました。
「どうする? もっと追いかける?」
「でも惜しかったね。あとちょっとであーんとできそうだったのに」
「キフィンは諦めがよすぎるよ。途中でやめちゃうんだから」

「そうかなぁ?」
キフィンは少し恥ずかしそうに笑った後、
「うん。でも楽しめたからもういいや。今はマンボウじいさんたちの後を追いかける方が大切だしさ。そろそろ追わないとどこに行ったかわからなくなるしね」
と、満足そうにうなずきました。

「あっ、そっか。マンボウじいさん」
「そだそだ。忘れてた」
「うん。見失うと大変だもんね」
「うんうん。急いで追いかけよう!」

 遊びに夢中になってうっかりマンボウじいさんたちのことを忘れかけていた子供たちは、キフィンの言葉に思い出し、慌ててマンボウじいさんたちが泳いでいった方向へ並んで泳ぎだしました。
「エヘヘ。でも楽しかったね」
「うん。次はちゃんとあーんできるといいね」
「うんうん。トビウオの群れをみつけてみんなで一緒にあーん」
「ププッ」
楽しそうにそんな会話をかわしながら……。







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