【鳥になりたい小魚 3】

 さて、お待ちかねの一週間後。この日をずっと待ち構えていたシェルンは、日の出と共に島の反対側マンボウじいさんのもとへと急ぎました。水中をグィーン! 時折顔を水面にあげて、キョロキョロ。でも、何処を探してもマンボウじいさんの姿が見当たりません。
「あれ? マンボウじいさんがいない。……どこへ行っちゃったんだろう?」
シェルンは焦って、あたりを必死にグルグル、ジタバタと泳ぎまわって探す、探す。けれど、マンボウじいさんの影も形も見つからないのです。

「まさか……本当に一週間前の約束を忘れて、もうどこかへ行っちゃったとか? あっ、でも、昨日はまだいたよな。ボク、ちゃんと確認したもん」
実は、シェルンは、心配で毎日こっそりマンボウじいさんの様子を見に来ていたのです。ただ、マンボウじいさんからは「一週間後にまた来るように」と言われていたため、遠くからその姿を確認するだけで我慢していました。
「毎日顔を出して鬱陶しがられては困ると遠慮してたんだもんな。怒らせて魔法をかけなおしてもらえなかったら、ボク、ずっとこのままになってしまうし」

『それにしても……本当にどこへ行っちゃったんだよ、マンボウじいさぁ〜ん』
シェルンが心配で半分泣きそうになったその時、海の底からピカピカと光るお日様のような丸いものが浮かんできました。

ザッ、バーン!

マンボウじいさんです!

マンボウじいさんは、その丸い体を横向きにして波間に浮かせると、気持ち良さそうに言いました。
「おぅ、今日もいい天気じゃ。くらげやイカも食ったし、のんびりするか」

「あ、あの。おはようございます。マンボウじいさん」
シェルンが声をかけました。すると、マンボウじいさんは少し驚いたようにその小さくて丸い目でシェルンを見つめて言いました。
「おやっ、こんな暖かいところにペンギンではないか。珍しいのぅ。ほぉほぉ」

『おいっ! あんたがボクをペンギンにしたんだろ!』
どうやら一週間前の出来事を本気で忘れ去っているようすのマンボウじいさんに、シェルンは呆れ、ムッとしました。ですが、ここでマンボウじいさんを怒らせるわけにはいきません。
「いえ。ボクはもともとペンギンじゃなくて、ソラスズメです。一週間前、マンボウじいさんの魔法でオオミズナギドリにしてもらおうと……」
シェルンは、できるだけ冷静且つ簡単にマンボウじいさんに一週間前の出来事を話しだしました。

「ほぉほぉ。ふむふむ。……ああ、そうじゃったな」
シェルンの説明に、マンボウじいさんは、ようやく一週間前に、自分がソラスズメの子供に魔法のかけ間違いをしたことを思い出しました。
「そうか、そうか。……だが、ペンギンも悪くはなかったじゃろ?」
そうマンボウじいさんに聞かれ、シェルンは素直にうなずきました。
「うん。意外にも……。すごく速く泳げたし、ずっと深くまで潜れたよ。……でも、ボクはやっぱり空が飛んでみたいんだ。マンボウじいさん、お願い。今度こそボクをマンボウじいさんの魔法でオオミズナギドリにして」

「してやってもいいが……。実はわしはそろそろもう少し北へ移動しようかと考えているんじゃ。じゃから、もしおまえさんが、オオミズナギドリになった後、やっぱり元のソラスズメに戻りたいと後悔しても、わしはいないぞ。それでもよいか?」
マンボウじいさんは確かめるようにそうシェルンに尋ねました。






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