【鳥になりたい小魚 4】

『えっ? どうしよう?』
シェルンは一瞬迷いました。だが、すぐに
『あっ、でも、その時はマンボウじいさんを追いかけていけばいいじゃん。空の上からなら、こんな感じでマンボウじいさんがプカプカ浮いていればすぐに見つかるだろうし』
と考えました。(……帰りのことまでは考えが及ばない、シェルンでした。)

それで、元気いっぱいうなずいてマンボウじいさんに頼みました。
「うん、大丈夫。だから、お願いしま〜す」

「そうか。おまえさんがそれほど言うのなら、いいだろう」
そう言うと、マンボウじいさんは一週間前と同じように、一度大きく息を吸い込み、そして銀色の息をシェルンに吹きかけました。

「うわぁ〜」
再びあの不思議な渦に巻かれたシェルンは、こんどこそ間違いなくオオミズナギドリにその姿を変えていきました。

「うわぁ〜い。やったぁ〜。どうもありがとう、マンボウじいさん」
シェルンが大はしゃぎで礼を言うと、マンボウじいさんは少し面倒臭そうに体を動かしました。
「いや。なんのなんの。じゃが、少しばかり疲れたようじゃ。あとはのんびりと休ませてくれないかの」

「は〜い。それじゃ」
そう言うとシェルンは
『よ〜し。行くぞぉ〜。思いっきり飛ぶんだぁ』
と、その翼を広げました。

 ふわっ。海上を渡る風に乗ってシェルンの体がふわりと浮きました。
「すごい! 飛んだ! ……あれれ?」
けれど、その後、シェルンの体は右に傾き海面にボシャン! 
「おかしいなあ。もう一度!」
ふわっ! ボシャン! 今度は左に落ちました。

「え〜ん。マンボウじいさん。うまく飛べないよぉ〜」
シェルンは後ろを振り返って言いました。すると、マンボウじいさんが眠そうな声で、
「そこまでは面倒みきれないぞ。わしも魚じゃ。上手な飛び方なんぞ知らんからな。それに、言い忘れておったが、オオミズナギドリはそんなに上空を飛ばないぞ。海風を利用して海上を滑空して飛ぶんじゃ。おまえさんがソラスズメの視点で見ていたから高く見えたのか、カモメやグンカンドリなんかとごっちゃにしたか、どっちかかも知れんのぅ」

「えええぇぇーーー!!!」
シェルンは驚きの叫び声をあげました。
「そんな、ひどい! なんで教えてくれなかったの、マンボウじいさん?」
「聞かれなかったからのぅ」
大ショックのシェルンと対照的に、ひどくのんびりとした様子でマンボウじいさんが答えました。

『聞かれなかったからって……じいさん、そりゃ、あんまりだよ』
シェルンは唖然としましたが、でもそこはなんにでも前向きなまだ子供のシェルン。
『ま、いいか。一応飛べるんだし。とにかく、まずはまともに飛べるようになるのが先だ。海上を滑空……カッコイイじゃん』
そう考えると、やる気満々。
「うん。ボクの勘違いなら仕方ないや。とにかくありがとう、マンボウじいさん。ボク、これで頑張ってみるよ」
と、改めてマンボウじいさんに礼を言い、再び、飛ぶ練習を始めました。

 ふわっと浮いては、右にボシャン! また浮いては、左にボシャン! そうやって、それでも少しずつ飛んでいる距離を伸ばしながら遠ざかっていくシェルンを見送りながら、マンボウじいさんは
「頑張りな、お若いの。……さて、わしは一眠りするか」
と、小さくあくびをしました。そしてまもなくうららかな陽射しを浴びながらぐっすりと眠り込んでしまいました。

海は今日も平和です。







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