【鳥になりたい小魚 2】

「えっ? あの、じゃっ、魔法は?」
シェルンが少しがっかりしながら尋ねると、マンボウじいさんはそれにもぼんやりとした口調で答えました。
「そうよなぁ。以前使ったことがあったような……なかったような。……ま、どっちでもいいことじゃな」

『いいわけないじゃん! こっちにはものすごく大事なことなんだぞ!』
シェルンは、マンボウじいさんのぼんやりぶりにイライラしながら、それでも、ここはグッと我慢して、じいさんに頼みました。
「マンボウじいさん。ボク、鳥になりたいんです。一度でいいから、オオミズナギドリになって、あの高い空を悠々と飛んでみたいんです。お願いです。どうか魔法でボクを鳥にしてください。ボクの願いを叶えてください。お願いします」

「ん? 鳥にか? おまえさんは、変ったことを望むんじゃな。……うーん、できるような、できないような。とにかくわしはまだ眠い。……だが、まあ、とりあえずやってみるか。こうだったかな?」
そう言うと、マンボウじいさんは、一度大きく息を吸うと、それをフゥーっとシェルンに吹きかけました。それはキラキラ光る銀色の息でした。

「うわぁ〜!」
マンボウじいさんの銀色の息に吹き飛ばされながら、シェルンは自分の周囲に不思議な渦が巻き、身体が変化していくのを感じました。
『やったぁ〜! 嘘じゃないんだぁ〜! これでボクも鳥になれる〜!』
シェルンの身体はどんどん大きくなり、黒っぽい羽が生えてきました。

そして……。

『おおおーーー!!! すごい、すごい! ぐんぐん泳げる! どんな魚より速いぞ! って、ちがぁーーーう!!!』
シェルンは、自分が鳥は鳥でも、空を飛ぶオオミズナギドリではなく、水中を猛スピードで泳げる代わりに陸上ではヨタヨタ、おまけに空なんか一切飛べない丸っこいペンギンになっていることに気づきました。

「えーん。マンボウじいさん。これ、ちがぁーう!」
半泣きになって戻ってきたペンギンのシェルンを眺め、マンボウじいさんは、のんびりと言いました。
「おやっ? 間違えたか? ま、久しぶりの魔法じゃ。勘が鈍っても仕方がないのぅ。じゃが、ペンギンも同じ鳥の仲間じゃ、それで手を打ってはくれまいかの?」

「いやだぁ〜! ボクは空が飛びたいんだぁ〜! お願い、マンボウじいさん。もう一回、魔法をやり直してよぉ〜!」
マンボウじいさんの目の前で、シェルンペンギンはジタバタと駄々をこねました。

「わがままな子供じゃのぉ」
マンボウじいさんは、困ったようにそうつぶやくと、
「仕方がない。もう一度魔法をかけなおしてやろう。だが、魔法は一度使うと、次に使えるようになるまで確か一週間くらいかかるんじゃ。だから、おまえさん、一週間後にもう一度わしに会いに来てくれ。年のせいかすっかり忘れっぽくなってのぉ。一週間先の約束など覚えておる自信がないのでな。おまえさんの方でしっかり覚えておいてくれ」

『がぁーーーん! 一週間、この格好かよ』
シェルンは、ショックを受けつつ、仕方なしにペンギンの姿のまま、ケインたちのいる岩場へと戻っていきました。


 最初、突然のペンギンの襲来にパニックに陥ったケインたちでしたが、それがマンボウじいさんの魔法でペンギンになったシェルンだとわかると大笑い。皆、シェルンの周りに近寄って、興味深そうにツンツン、ペシペシ。

 すっかりケインたちのおもちゃにされながら、シェルンは
『くそぉ〜! 次こそ、絶対にオオミズナギドリにしてもらって、あの空を飛んでやるんだぁ。……負けないぞ……グスン!』
と考えていました。

 果たしてシェルンペンギンは、年をとって天然に拍車のかかったマンボウじいさんに、今度こそ無事にオオミズナギドリにしてもらえるのか……。

それは一週間後のお楽しみ……。





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