【海のお医者さん　２】

「ところで……」
カモメは、マンボウじいさんの上からフィンフィンのキラキラ尾びれを見下ろして尋ねました。
「そこの、一頭だけ妙に光る尾びれをしているやつ。そのピカピカはどうしたんだ？」

「あっ、これ？」
訊かれたフィンフィンはニコニコ笑って答えました。
「これはね、マンボウじいさんに治してもらったんだ」
他のイルカの子供たちも自分のことのように嬉しそうにうなずきます。
「そうそう。サメに尾びれを齧られてフィンフィンが泣いちゃったから、みんなでマンボウじいさんに治してくれるようにお願いしたの」
「うんうん。そしたら治った部分がこんなキラキラお星様みたいになった」
「目立けど大丈夫。危ない時はみんなで守るから」
「うん！　みんな仲間だもん！　ねーっ！」
「うんっ！」

「ほほぉ」
カモメはひどく感心したようにイルカの子供たちを見つめました。そして、目を細めて
「そうだな。仲間は助け合わないとな」
と言いました。
「うん！」
イルカの子供たちは一斉に大きくうなずきました。

「それにしても……じいさんたちマンボウが魚たちの怪我を治せるので『海のお医者さん』と呼ばれているのは知っていたが、イルカの尾びれをそんなピカピカにできるとはねえ……たいしたもんだ」
「ん？」
しみじみと言うカモメの言葉に、イルカの子供たちは顔を見合わせました。そして、好奇心いっぱいに尋ねだしました。
「ねえねえ。その『海のお医者さん』ってなに？」
「マンボウじいさん以外のマンボウもみんな魔法が使えるの？」
「でも、魔法って奇跡の島の海底洞窟にある伝説の黒真珠を飲まないと使えないんでしょ？　他のマンボウさんたちはどうやって魔法を使えるようになるの？」

「ん？」
イルカの子供たちの質問に、今度はカモメが不思議そうに首を傾げました。
「なんだ、その黒真珠とか魔法とかって？　知らんぞ。オレはただ、じいさんたちマンボウの身体の表面から出てくる不思議な薬が、他の魚たちの怪我を治してくれることを言っただけだ」

「えーっ！　そうなんだぁ」
今度はイルカの子供たちが驚きの声をあげました。
「マンボウさんたちって、みんなそんな不思議な力があるんだぁ」
「すごいなぁ。そんけー！」
「『海のお医者さん』かぁ。かっこいい！」
「うんうん。びっくり！　……でも、やっぱり魔法が使えるのはマンボウじいさんだけなんだね。マンボウじいさん、すご〜い」
「うん。やっぱりすごいよね！」
イルカの子供たちは尊敬の眼差しでマンボウじいさんを見つめました。

マンボウじいさんは、そんなカモメとイルカの子供たちの会話を聞いているのかいないのか、気持ちよさそうに太陽の光を身体に浴びてぽわぁ〜んとしています。どうやらお昼寝に入りかけているようです。
「あはっ、マンボウじいさん、寝ちゃってる」
「邪魔しちゃ悪いから、こっちで話そうよ」
「そうだね」
イルカの子供たちはマンボウじいさんからちょっとだけ離れた場所へ移動しました。そして、マンボウじいさんの上のカモメを呼びました。
「カモメさんもこっちこっち。ボクの上に乗って。マンボウじいさんの魔法について教えてあげるから」

「おぅ」
カモメはマンボウじいさんの上からイルカの子供の背中へと飛び移りました。
「それで、その魔法って一体どんなものなんだ？」
カモメが興味深そうに尋ねました。イルカの子供たちは一度お互いの顔を見合い、それから楽しそうに我先にと一斉に話し出しました。
「うん。あのね、マンボウじいさんは昔あの有名な奇跡の島に行ったことがあるんだって」
「そうそう。それで、その奇跡の島の海底洞窟にある伝説の黒真珠を……」
「うっかりパクっと飲み込んじゃったんだって」
「どうやったらそんなものをうっかり飲み込めるのか不思議だけどね」
「そうそう。その辺のところは、聞いてもマンボウじいさん、笑って教えてくれないんだ。『昔すぎて忘れた』って」
フィンフィンが少し不満そうにそう言うと、カモメが笑って、
「いや。マンボウじいさんは嘘をつかないからな。忘れたって言うのなら、本当に忘れたんだろ」
と、とりなしました。

「そっか。……それでね、マンボウじいさんの中に入った伝説の黒真珠は、溶けてしまわないで、今もマンボウじいさんの身体の中にあって、それの力で不思議な魔法が使えるんだって」
「そうそう。なんでも願いの叶う素敵な魔法」
「うんうん。ソラスズメの子供をオオミズナギドリに変えた」
「ボクのサメに齧られた尾びれをキラキラ光る素敵な尾びれに直してくれた」
「迷子の蝶々さんたちに仲間のいる場所への道を教えてあげた」
「マンボウじいさんの魔法はみんなが幸せになるとっても素敵な魔法なんだ」
「うん。とっても素敵な魔法！」
そう言ってイルカの子供たちはにっこり。







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