【海のお医者さん 1】

スゥーー。深海から一気に海面まであがってくると、マンボウじいさんは一度大きくジャンプ。そして、その平たい身体をひねってバシャンと海面に打ち付けました。それから、ずっと太陽の光の射し込まない深海に潜っていてすっかり身体が冷えてしまったので、温めようと海面に横たわってプカプカプカ。

ポカポカポカポカ。

「ふぅ、暖かい」
明るい太陽の光を浴びてマンボウじいさんは気持ちよさそうに目を閉じました。(マンボウはお魚さんなのにまぶたがあるのです)その時です、一羽のカモメが飛んできて、ストンとマンボウじいさんの上に降り立ちました。

カモメは、とても親しげにマンボウじいさんにご挨拶。
「こんにちは、マンボウじいさん。相変わらず元気そうだな」
マンボウじいさんものんびりとお返事。
「やあ、おまえさんもな」
「いつものやつやっていいか?」
「ああ、頼むよ」
すると、カモメはマンボウじいさんの身体をそのくちばしでツンツンと突きはじめました。

ツンツン、ホジホジ、パクッ。なにやらとても美味しそうに食べだしたようです。

そこへやってきたのはいつものイルカの子供たち。すっかりマンボウじいさんに懐いてしまっているようです。
「こんにちは〜 マンボウじいさ〜ん」
でも、楽しそうにやってきた子供たちの目に飛び込んできたのは、カモメに突かれ食べられているマンボウじいさんの姿。
「ああっ! 大変だぁ!」
「わっ! マンボウじいさんが食べられてるぅ!」

イルカの子供たちは、マンボウじいさんの一大事だと大慌てでカモメに飛び掛っていきました。
「ダメェー! マンボウじいさんを食べちゃダメ!」
「マンボウじいさんから離れろー!」
「マンボウじいさん、早く海に潜ってぇ!」

イルカの子供たちの剣幕にカモメは慌てて飛び上がると、空中からブンブンと首を振って説明しました。
「違う、違う。マンボウじいさんを食べていたわけじゃない。オレはマンボウじいさんの身体に引っ付いている虫を食べていたんだ。マンボウじいさんがこうやって海面に浮いて日光浴している時に、身体についた虫を食べてやるのが習慣なんだよ」

「えっ? あっ、そうなの? ……本当、マンボウじいさん?」
イルカの子供たちが、マンボウじいさんに確かめるように尋ねました。マンボウじいさんはイルカの子供たちを面白そうに見つめてのんびりと答えました。
「ああ。カモメの言うとおりだ。わしも自分で海上で跳ねて身体についた虫を取るんだが、それだけでは全部取りきることはできないからな。時々こうやってカモメや小魚たちに食べてもらっているんだよ」

「なぁ〜んだ、そうかぁ。びっくりしたぁ」
「うんうん。ボクたち、てっきりマンボウじいさんが食べられちゃってるのかと思っちゃった」
「そうそう。それで早く助けなくっちゃって焦ってしまったよ」
「だよね。大好きなマンボウじいさんがいなくなったらボクたち困るもん」

口々にそういうイルカの子供たちを眺めながら、マンボウじいさんは少し得意そうにカモメに言いました。
「どうだ、カモメ。わしの新しい友達は本当にいい子たちだろ?」
カモメは再びマンボウじいさんの上に降り立ち「うんうん」と大きくうなずきました。
「ああ、確かに。こんないい子たちに好かれているおまえさんがうらやましいよ」

「いやぁ、そんな、それほどでも……あ、でも、ちょっとだけそうかも」
「エヘヘ。まあね」
「うんうん。ボクたち友達として当然のことをしただけで……勘違いだったけど」
「そうそう。早とちりしたけど、マンボウじいさんが好きだからだし……ねっ!」
褒められたイルカの子供たちは、照れくさそうに笑いながらお互いの顔を見合いながら「うんうん」と元気にうなずきました。









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