【有翼狼の伝説 第二章・誇り高き放浪者 6


 やがて、太陽があたりを黄金色から赤に染めて沈み行き、それに代わって暗い闇が大地を覆い、きらめく星々が空を飾りだした。それでも、熱い水の噴出しは止むことなく定期的に続いている。エアハルトは『フム』と少し首を傾げながらつぶやいた。
「日の光とは関係ないようだ。やはりこれはこの大地そのものの呼吸なのだろうな。そして……」

 エアハルトは満天の星空を見上げた。
「あの星たちの瞬きもまた星の呼吸なのかも知れない。……星。あの星たちの正体は一体何なのだろう? 夜毎生まれては朝には消えていく儚い命なのか? それとも、明るいうちはただ見えていないだけで、それは常に空に在り続けているものなのか?」

 その時、不意に夜空の一角から一つの星が流れた。そして、それをきっかけにしたかのようにそこから次々と放射状に星が流れ始めたのだ。
「おおっ!」
エアハルトは驚きに大きく目を見開き、食い入るように星々が流れていく様子を見つめた。

 エアハルトの視線の先で星が次々に現れては流れて消えていく。
「美しい。なんて美しいんだ……。もっと近くで見たい。もっと間近に……。ああ、あの中を天駈けたい」
すっかり魅せられてしまったエアハルトが空への憧れを口にした。その瞬間、その胸の焦がれるような想いが背に移ったかのように、エアハルトの背中の小さな翼が生えている箇所が熱を帯びだした。

「あ、熱い! なんだ?」
エアハルトは驚いて首を捻り己が背を確かめようとした。だがその瞬間全身の力が一気に抜け、エアハルトはその場に崩れ落ちてしまった。
『な、何が起こったんだ? 力が入らない。それに背が、焼けるように痛い!』
必死に立ち上がろうとするエアハルトだったが、全身が細かく痙攣するだけで思うようにならない。そして、その全身の力と熱が全て背中にある2点に集中していく。

「ウオオォォ――――ン!」
メリメリと音を立てて体を引き裂くような猛烈な痛みに耐え切れず絶叫しながら、エアハルトはそれでもその苦痛にかすむ目で夜空を見続けた。
『俺は……死ぬのか? だがそれでも、こんな美しい星を見ながらの死なら、それも悪くはないか。……死んでも俺の魂は……まだ先を求め、あの高みを望んで、駆け続けるだろう……』
そう考えながらエアハルトの意識はやがて暗い闇の中に落ちていった。


 どれほどの時間気を失っていたのか、やがてエアハルトはサワサワと風が木々の葉を揺らすような心地よい音に目を覚ました。
「ん? この音は……えっ?」
エアハルトが音のする方向、背後を振り返ろうとしたその瞬間、体がフワリと浮いたのだ。そして、視界の端に鷹のような大きな翼が飛び込んできた。
「まさか、俺の?」
体毛の中からほんのわずかに飛び出していたにすぎなかったエアハルトの翼が、気を失っているわずかの間に急成長し、その体を浮かせるほどになったというのか?

「信じられん!」
一瞬、エアハルトは我が身に起こった劇的変化への驚きに呆然とした。だが、すぐにその驚きを喜びに変えると、瞳を輝かせ、空を見上げた。
「俺の願いが翼を伸ばしたのなら……行ってみよう。あの空へ。星たちのそばへ」

 エアハルトはその背の翼を動かそうと意識してみた。すると、まるで生まれつき備わっていたかのようにその翼が大きくゆっくりと羽ばたき、エアハルトの体を舞い上がらせていった。






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