【有翼狼の伝説 第二章・誇り高き放浪者 5


「地面が温かい!」
大きなエメラルドブルーの池近くまで来た時、エアハルトは驚きに一旦立ち止まり足元を見つめた。
「これは……日に暖められた温もりではないな。大地そのものが温かいんだ。それに……この煙と臭い。火もないのに不思議だ」

 それから、エアハルトは慎重に池に向かってその黄色い地面を数歩進んだ。すると足の裏に感じる温度が確実に高くなったのを感じた。本能的に危険を感じたエアハルトは慌てて後ずさりし、鮮やかな色の池を見つめてつぶやいた。
「あの池は……美しいが危険なのだな。この距離でこれほど熱くなるなら、あの池の水はきっと触れることができないほど熱いはずだ。……だが、そうとわかってもやはり美しい。もっと近くで見ることができないのが残念だ」

 だが、落胆する暇もなくエアハルトの関心は、突然背後でシューッ!と音を立てて噴出した水の柱に移った。その水の柱も近寄っていくと熱いしぶきが飛んできて熱湯であることがわかった。
「これも熱い水なのか。それにしてもすごいな」
エアハルトは感動してその水の柱を見上げた。

 しばらく見つめていると水の柱は噴出した時と同様突然スッと地面の飲み込まれるかのように消えてしまった。注意しつつ近寄ると少し窪んだ場所の中央に泥が溜まっている。
「そうか。あそこが不思議な水の柱の根元か。……またあそこから噴出すはずだ」
エアハルトは熱湯が噴出しても大丈夫な場所まで下がると、その場に座り込んで、噴出し口をじっと見つめながら、再びあの水の柱の出現を待つことにした。

「それにしても、何故地面からあんな熱い水が、それもあんなに高く勢い良く噴出すのだ? ……この地面の下で何が起こっているのだろう?」
そんなことを考えているうちに、泥が一瞬膨らんで見えた次の瞬間、エアハルトの前に再び音を立てて水の柱が高く聳え立った。
「すごいな。本当に一気に噴出すんだ。それもただの泥溜まりにしか見えないあんな場所からこれほどたくさんの水が」
感心して見上げるエアハルトに誇るかのように、その水の柱は先ほどよりその高さと激しさを増しているようだった。

 2度目の噴出しが終わると、エアハルトはその窪地の周囲をグルグルと廻り、時折立ち止まっては地面に耳を押し当ててみたり、足で大地を叩いたり、少し土を掻いたりしてみたが、なにもわからなかった。
「うーむ、たぶんもっと地中深い所に秘密があるのだろう。この地面の下には信じられないほどの量の熱い水があって、それが何かの力で地中から吐き出されるのは間違いないのだが……だがその力の正体は何だ? それに何故その水があんなに熱いんだ?」

 不思議な水の柱は噴出しては消えまた噴出すのを繰り返す。
「俺たちが息をするのと同じなのかな? ここではまるで大地がその息を熱い水として吐き出しているみたいだ。だが、その熱の元は……」

 エアハルトは空を見上げてつぶやいた。
「この日の光が大地に溶け込んだものだろうか?」
それから、思い出すように目を細めた。
「それとも、以前フォルカーから聞いた火の山というものと同じく、地中深くに火があるのだろうか? だが、火の山は火を噴出すのに、ここでは熱い水だ、それも出たり止んだり……面白いな」

 すっかり水の柱の魅力に取り付かれたエアハルトは、その不思議な大地のショーが繰り返されるのを時間を忘れ夢中になって見つめ続けた。






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