【有翼狼の伝説 第二章・誇り高き放浪者 4


「これが……」
頂上から見下ろす世界は、エアハルトの予想を遥かに超えすばらしい景観だった。すぐ目の前は峡谷になっていて、右手の切り立った崖から噴出す滝からは、真っ白な水が轟音を立てて流れ落ち、滝つぼの水煙がたっている上には虹がかかっている。視線を左に移すと、遥かに広がる平野に赤や青や緑など色とりどりの池が散らばっている。その回りから薄い湯気のようなものがでているのが見える、
「あれは……熱い池なのか? えっ? あれはなんだ?」
エアハルトは不思議そうに首をひねった。湖の背後で、突然地面から真っ白な水が噴出し一瞬高くそびえ立ったと思った次の瞬間消えたのだ。

「目の錯覚か?」
だが、それはエアハルトの見間違いではなく、しばらくじっと見つめているとその同じ場所に再び水の柱が現れて消えた。それに、よく見るとその不思議な水の柱が現れるのはそこだけではなく、もっと遠くにいくつも小さく現れている。
「……なんて不思議なんだ! 大地が呼吸をしているぞ。その姿がこの目でみられるなんて。もっと近くで見たい」
エアハルトは、今まで感じたことのない胸の高まりを覚え、逸る心のままに山を駆け下りだした。

だが、むき出しの岩肌を駆け下りたエアハルトを、滝から流れ落ちる膨大な水が激流となって行く手を阻んだ。
「うむ。困ったな」
その見るからに流れの速い川を見つめ、エアハルトはつぶやいた。だが、その表情はそんな困難さえ楽しいかのように輝いている。

 エアハルトはしばらくどうにか渡れる場所はないかと川の流れにそって進んでみたが、川の流れはどこまでも激しくその水量は豊かだった。
「仕方がない。泳いで渡るか」
エアハルトは流れの激しさに臆することもなく、ザブンとその激流の中に飛び込んだ。

 川の流れは想像していたよりも速く、あっという間にエアハルトを下流に押し流していく。だが、エアハルトは必死にその足を動かし、少しずつではあるが着実に前へ進んでいった。そして、ついに川を渡りきり向こう岸にたどり着くことができた。

 荒い呼吸を整え、ブルッと体を震わせて水を切ると、エアハルトは周囲を見回した。そして、滝が遥か遠くに小さく見えることに少し驚き、照れたように笑った。
「随分流されたな。もう少し泳ぎの練習をしないとだめだな。だが、それはまた後だ。今は……」
エアハルトは、山の頂から見たあの色とりどりの池、そして何よりあの不思議な水の柱を間近で確かめるべく駆け出した。







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