【有翼狼の伝説 第二章・誇り高き放浪者 3


 急く様に原野を走りぬけ、遥かにそびえる山のふもとにたどり着くと、エアハルトは空を見上げ嬉しそうに微笑んでつぶやいた。
「雲が……どうやら嵐になりそうだな。晴れ渡った青空もまぶしい太陽も透けるような輝きの月も好きだ。だが、俺の心をもっとも昂らせるのは、やはり嵐だ。穏やかな天と地が時折見せる荒らぶる魂。激しい雨と風、そして天地を切り裂く稲妻と雷鳴が、俺の心に眠っていた何かをいつも引き出そうとしてくれた……」

 エアハルトはヴァルトの山での日々をふと思い出して遠い目をした。仲間に囲まれ平和で楽しかった日々。だが、いつも心のどこかになにか満たされぬ思いを抱き続けていた。
『ここではない……。どこかもっと他の……』
漠然としながら、それでいて乾くように欲していた自由。それを今こうして手に入れることができたのだ。あとは、ただまっすぐに迷うことなく前へ進んでいけばいい。行く手に待ち受ける危険もまた自由の証。エアハルトは軽い足取りでそびえ立つ山への一歩を進めた。

 ふもとに広がる鬱蒼とした森は、ヴァルトの山同様、エアハルトの行く手を阻むものではなかった。エアハルトは暗い森の中を風のように走りぬけ、一気に駆け上がって行った。そして、森を抜けるとそこにはゴロゴロとした大岩がむき出しになった切り立った岩壁が待ち受けていた。

「これはすごいな」
だが、エアハルトは楽しくて仕方ないようにそう言うと、わずかな岩の凹みを利用して器用にその岩壁を登って行った。

 やがて、エアハルトの予想通り、空が暗い雲に覆われ、雨が降り出した。
「来たか」
エアハルトは嬉しそうに目を細めた。

ザァーーッ! 

 あっという間に雨足が強まり、目を開けているのが辛いほどの激しい雨がエアハルトの体に打ちつけ、時折吹く強風がエアハルトのバランスを崩そうとする。

「おっと!」
雨に濡れた岩で一瞬足元が滑った。エアハルトは一旦歩みを止め、クスッと楽しそうに笑った後、心の中に沸き起こる興奮を抑えきれないかのように
「ウオォーーン!」
と、遠吠えをするのだった。







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