【有翼狼の伝説 第二章・誇り高き放浪者 2


 すると、声の主は懐かしげに言った。
「遠い若い頃にわしはあそこへ行ったことがあるのだ。友と一緒にな。だが、その友は……留まることを知らぬ者であった。そのまだ先へ行きたいと言ったのだ。だが、わしは故郷のこの地に戻りたかった。それで、その地でわしと友は別れた。……あやつはあの後、どうしたのか? どこまで行き、何を見ることができたのか? それはわしにもわからん。……わしらの長老はあやつのことを『誇り高き放浪者』と呼んでおった。あやつの背にあった不思議な翼が、その心を終わりのない放浪へといざなうのだとな。そして……おまえさんの背にもその翼が見える。それで、つい懐かしくなって声をかけてしまったのだ。年寄りのおせっかいと笑ってくれ」

「そうか。ありがとう」
エアハルトは声の主に礼を言うと、遥かに連なる山々を眺め、
「あの向こうにはそんな不思議な世界があるのか。見てみたい、この目で。そして、その先の世界も……」
とつぶやき、それから
「もしどこかであんたの友に会えたら、あんたが懐かしがっていたと伝えてやるよ。俺はエアハルト。あんたとその友達の名は?」
と尋ねた。

「わしの名はイェルク。友の名はハルトムートと言った。もしあやつに会えたらよろしくと伝えてやってくれ。……ついでに、おまえさんに一つ聞きたいのだが。まだまだ若いおまえさんにはわからないのかも知れんが。……わしはまもなくこの地で眠りにつくことになろう。生まれ育った故郷でな。だが、放浪を続けるおまえさんのような者はいつどこで力尽き倒れるかわからん。それは……淋しくはないのか?」

 イェルクの問いに、エアハルトは明るい笑顔を見せて首を振った。
「いや。たとえどこを流離おうともそれまで出会った友や仲間を忘れることはない。思い出はちゃんとこの心の中にある。そして、その上でより遠くを目指してしまうんだ。確かにいつかどこか見知らぬ場所で力尽き果てることになるだろう。だがその瞬間でも、心はより先を見つめたままだと思う。……死んだ先はどうなるのか? 俺のこの魂はどこにいくのか? それもまた新しい旅の第一歩だと。きっとそんなことを考えているだろうな」

「そうか。……では、後悔もなく孤独でもないんだな。よかった」
イェルクは、ホッと嬉しそうに大きく息を吐いた。
「ああ。あんたの友達もきっと俺と同じだと思う。……それじゃ、俺はもう行く。いろいろとありがとうな」
そう言って駆け出したエアハルトの後姿を、イェルクは
「ああ、どこまでも先を目指すがいい、お若いの。おまえさんもあやつと同じ『誇り高き放浪者』。誰にもその自由な心を止めることはできまい」
と、かつての友と重ねあわして懐かしむように見送った。






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