【有翼狼の伝説 第二章・誇り高き放浪者 1


タタタタタッ! 

 軽快な足音だけが、まだ明けやらぬほの暗い森の中を走る。
『なんと心地よい』
エアハルトは、嬉しそうに目を細めた。澄んだ空気が顔に当たり、夜露を含んだ草木が体に触れる。自分でももうどれほどの距離を走り続けているのかわからなくなった。それでも、エアハルトの足は決して走ることをやめようとはしない。急ぐ旅でも、目的のある旅でもない。なのに、エアハルトの心が、先へ先へとその体をいざなうのだ。

『何故これほど心が逸るのだ? この森の先には何が? そして、その先には? 俺の心がまだ知らぬ何かを求めて止まらない。そして、今までこんなに長く速く走り続けたことはなかったのに、息も苦しくなく、足も痛まない。まるで宙を浮いているかのように体が軽い。こんなことは初めてだ。……まるで風の精にでもなったかのようだ』
エアハルトはただまっすぐに前を見つめ、ひたすらに走り続けた。

 突然、エアハルトの視野が大きく開けた。森を抜けたのだ。そしてそこには、エアハルトがいままで目にしたことのない広大な原野が広がっていた。遥かな地平線から日が昇り、まるでエアハルトの新たな旅を祝福するかのように、明るい光がエアハルトに降り注ぐ。
『まぶしい!』
エアハルトは一旦足を止め、目を細めてその景色を見渡した。遥か原野の右手に連なる山々が見える。その頂は純白の雪を被ったままだ。
「あの山の向こうには何があるのだろう?」

 その時、不意に草むらの中からエアハルトの問いに答える声がした。
「あの山の向こうには、不思議な世界があるぞ。深い峡谷に滝、突然空高く吹き出す水、赤や青や色とりどりの熱い池、岩でできた奇妙な塔、白や黄色の石の段、他にもたくさん。とにかく自分の目でみなければ信じられない景色の数々だ」

「誰だ?」
驚いて声の主を探そうと一歩踏み出したエアハルトに、その声の主はそれを押し留めるように言った。
「おっと。わしを探すのはやめておくれでないか。ここまで年老いた身を誰かに見られるのは恥ずかしいのでな」

 エアハルトは首をかしげながら、踏み出した足を元に戻すと、
「わかった。だが、あんたはなぜあの遥かな山の向こうのことを知っている? そして、何故俺にそのことを教えてくれるのだ?」
と問いかけた。




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