【有翼狼の伝説 第二章・誇り高き放浪者 11


「大地の端! 行ったのか? それで海とは? それは何だ?」
エアハルトが、興奮して聞き返した。すると、ハルトムートは面白そうに目を細めた。
「行ったが、どうやらこの大地は海という大きな水に囲まれているらしいので、海に面している場所はどこでも大地の端にはなるようだ。俺が行ったのは、その大地の端の中でもあちら、日が毎朝昇る方角の端だ。日が昇ってくる下を見てみたいと思ってな。だが、海に出くわして、その先には進めなかったのだ」

 それから、ハルトムートは自分の片方の折れ曲がった翼を振り返りながら、苦笑して続けた。
「そこで出会った鳥たちによると、海の果て、何日も飛び続けた先にはまた別の大地があるそうだ。今からそこへ向かうと言っていた。俺もやつらと一緒に行きたいと思ったが、生憎この翼では長く飛べないからな。それでも一度は挑んでみたのだが……。海というやつ、水のくせにやたら塩辛くて飲めないのだ。無理に飲むと却って喉が渇く。おまけに飛ぶことに疲れても、俺は鳥たちのように海に浮かんで休むこともできない。泳ぎ続けていなければならないのだ。その上、獲物になりそうなものも見当たらない。つまり、海を越える為には、飲まず食わずでひたすら休みなく何日も飛び続けねばならないということだ」

「それでも……その先にまだ見ぬ大地があるというのなら、やってみるだけの価値はあると俺は思う」
エアハルトがそう言うと、ハルトムートは笑ってうなずいた。
「そう言うと思っていたよ。だが、その為には、おまえのその翼。それを大切にしろよ。俺のように痛めてしまっては肝心の時に役に立たないからな」

「……その翼は、どうしたのだ?」
ためらいがちにエアハルトが訊ねた。すると、ハルトムートは、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて思い出すように言った。
「これか? これは、俺の無謀な好奇心の結果だ。……旅の途中、不思議な嵐にあった。厚く真っ黒な雲から激しい風の渦が下りてきて、見る間に地面からも伸びてきた風の渦と繋がったのだ。その雲と地面を繋いだ巨大な凄まじい風の渦は、まるで生き物のように木々をなぎ倒し吹き飛ばし俺の方へと近づいてきた。他の生き物たちは一斉に逃げ出したが、俺はその渦の中がどうなっているのかとふと気になってしまってな。それで、どうしてもその中に飛び込んでみたくなったのだ」

「恐ろしくはなかったのか?」
迫り来る巨大な風の渦を想像してエアハルトが不思議そうに首を傾げると、ハルトムートは、
「恐ろしかったさ。だが、おまえならわかるだろ? それ以上に、胸が高鳴った。恐怖よりワクワクする気持ちの方が強かったのだ。それで、思い切り突っ込んで行ったはいいが……その風の渦にぶち当たったと思った次の瞬間、弾き飛ばされて気を失ったらしい。気がついた時には、全身傷だらけになって倒れていた。その後、他の傷はどうにか癒えたのだが、片方の翼と後ろ足は今もこのざまだ。だが、それほど後悔しているわけではないぞ。やらなかったより、やってみて失敗した方が面白いからな。おまえもそう思うだろ?」
そう言ってエアハルトをジッと強く見つめた。

「ああ、確かにそうだな」
エアハルトが同意して大きくうなずいた。
「その風の渦。きっと俺も中を見てみたくなるだろうな。だが、もしその渦に出くわしても、その時はあんたの忠告通り好奇心を我慢して翼の方を大切にするよ」

「ああそうしてくれ」
ホッとしたように小さく息を吐いた後、改めてハルトムートは周囲を見渡して呟いた。
「それにしても綺麗な花たちだな。それに、この景色……どこか懐かしい」

「懐かしくて当然だ。ここはあんたが育った場所からほど近い」
「えっ?」
エアハルトの言葉にハルトムートが驚いた表情を浮かべた。エアハルトは、そんなハルトムートに草原であった狼の言葉を伝えた。
「イェルクという友を覚えているか? 彼があんたによろしくと言っていたよ」










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