妖精のおまけつきチョコ 4】


ソワソワ。ドキドキ。
「ねえねえ、本当に悠斗君の気持ちがわかるの?」
翌日のバレンタインデー本番。教室で登校してくる悠斗君を待ちながら、真緒ちゃんは肩に止まっているガルコナーにこっそりと尋ねました。

「大丈夫だから落ち着けって。それより、俺はマオにしか見えないんだから、そんな風に俺に向かってぶつぶつ話しかけると周りに変に思われるぞ」
「あ、そっか。うん」
真緒ちゃんは慌てて図書室から借りてきている本を開いて読んでいる振りをしました。

 数分後、
「おはよ〜」
いつもどおりの明るく元気な挨拶と共に、悠斗君が教室に入ってきました。
『来たぁ〜!』
真緒ちゃんの心臓は胸から飛び出すかと思うほど大きくドッキン! それから、まるで音楽のテストの時間、一人ずつみんなの前で歌う順番を待っている時と同じくらい、いいえ、それ以上にもっと緊張でドキドキしてきます。

『うわぁ〜。どうしよう? むちゃくちゃドキドキするぅ』
そう思いながら、真緒ちゃんが机の横のフックにかけている手提げ袋の中のチョコに手を伸ばしかけた時、真緒ちゃんより早く4、5人の女子が立ち上がってチョコレートを手に悠斗君に駆け寄りました。
「悠斗君。はい、バレンタインのチョコレート」
「あ、私も。はい、受け取って」
「私も、私も」

『わっ。先こされたぁ』
慌てて真緒ちゃんが振り返ると、なんと! チョコを手渡す女子たちの頭の上に薄いピンク色の丸い光がほわほわと浮いて悠斗君の頭の上に向かっていきます。そして、悠斗君の頭の上に来ると、スーっと煙のように消えてなくなるのです。
「あ、あれが言ってた魔法?」
真緒ちゃんが小声でガルコナーに尋ねると、ガルコナーは真緒ちゃんの肩に腰掛けて、偉そうに腕を組みながら「うんうん」とうなずきました。
「そうだ。あの光が消えるってことはゆーと君の方ではそんな気がないってこと。好きな女の子の光にだけ反応してピカッと光るはずだ」

「そうなんだぁ。……真緒の時も消えるのかなぁ?」
『なんだか渡すのがだんだん怖くなってきちゃった』
真緒ちゃんがそんな心配をしていると、クラスで一番美人で男子に人気のある杏奈ちゃんが他の子よりもずっと大きくて高そうな箱を手に悠斗君に近づくと、自信たっぷりににっこりと微笑んで「はい、私からも」と差し出しました。
「ありがとう」
悠斗君もにっこり。……けれど、悠斗君の頭の上でやっぱりピンクの丸い光は消えてしまいました。

『あれ? 杏奈ちゃんでも光らないんだぁ』
意外に思いながら眺めている中、悠斗君は周りの男の子たちに冷やかされながら自分の席に着きました。そして、机の中にもらったチョコを入れようとして、すでに中のもう一つ入っていることに気がついたようです。青いリボンのついた小さな箱にはカードが挟まれているみたいです。悠斗君は『誰だろう?』という風に首をかしげてそのカードを開きました。

 ピカッ! その瞬間、悠斗君の頭の上で丸い玉がキラキラと金色に光出しました。
「おっ! 本命からチョコをもらったな。マオ、あれが俺の言っていた魔法で……って、やばっ!」
ガルコナーは、いばってそう言いかけ、真緒ちゃんが涙目になっているのに気がつきました。当然です。チョコを渡す前に目の前で失恋決定になったのですから。

「え、あっ……どうする? とりあえずチョコだけは渡すか?」
気まずい様子でガルコナーが真緒ちゃんに尋ねました。でも真緒ちゃんは黙ってブンブンと首を横に振り、開いている本に顔をくっつけるようにして必死に涙を隠してしまいました。

「まいったなぁ。これじゃ、またギャン・カナッハ様に叱られてしまうなぁ」
すっかり落ち込んでしまった真緒ちゃんの様子に、ガルコナーも困ってボリボリと頭を掻きました。


「なあ、元気出せって。ゆーと君がダメも他にいっぱい相手はいるからさ。また他のやつに頑張ればいいじゃん」
学校の帰り道、まだ落ち込んだままの真緒ちゃんの周りとフラフラと飛び回りながらガルコナーがそう励ましました。でも、真緒ちゃんはうつむいて小さく首を振って言い返しました。
「ううん。真緒、きっと一生悠斗君以外好きにならない。だから、もう次はないよ」

「あはは。それだけはないぞ、マオ。断言できる。いずれ絶対他の人を好きになるって!」
ガルコナーはお腹を抱えて笑いながらそう言うと、真緒ちゃんはムッとして顔を上げました。
「なんでそんなことがガルコナーにわかるのよ? 真緒のことなのに」

「わかるさ。俺の経験上、マオの年で失恋して一生そのままなんてやつは一人もいなかったからな。だからマオも絶対にこの先また他のやつを好きになって振られて、また次のやつに恋して振られて、それでまた誰かを好きになって振られて」
「ちょっと待ったぁ!」
真緒ちゃんはガルコナーの言葉をさえぎって文句を言いました。
「なんで全部振られるって決まってるのよ! もう、あったま来たぁ」
そして、プンプン怒りながら今までのトボトボとした足取りとはうって変わった早足で歩き出しました。ガルコナーはそんな真緒ちゃんの後を追いながら、
『わっ、怒らしちゃったか。……ま、いいか。しょぼくれているより怒っている方がまだ前向きだからな。うんうん』
と、一人で納得していました。




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