妖精のおまけつきチョコ 3】


「それで……マオの好きな……ゆーと君とやらとは……。なんだまだ全然意思表示してないのか。それじゃ、まずはコクるのから始めないとな」

「わ〜ん。人の気持ち勝手に読むなぁ〜!」
真緒ちゃんは真っ赤になってガルコナーに抗議しました。けれど、ガルコナーは『まあまあ』と手のひらを上下させながら言いました。
「気にすんなって。俺の仕事に必要な情報だけしか読まないから」
それからガルコナーは、自分の横に置いてあるチョコレートの箱をポンポンと軽く叩きました。
「じゃあ。このチョコに魔法をかけるか」

「魔法! どんな?」
ガルコナーの一言に、途端怒りを忘れて真緒ちゃんは顔を近づけてワクワクと期待を胸に尋ねました。ガルコナーはクスッと悪戯っぽく笑って手をチョコの箱の上においたまま言いました。
「そりゃ、マオの想いが通じる魔法だよ。いいか、このチョコを明日マオがゆーと君に渡す」
「うんうん」
「その時、好きですってマオがゆーと君に言って……」
「うんうん」
「『ありがとう。僕もだよ』ってゆーと君が言ってくれたら、マオとゆーとはめでたく両想い! どうだ、すごいだろ?」

「うん、すごいすごい。って、えっ? それのどこが魔法? 全然普通じゃん」
一瞬喜びかけた真緒ちゃんでしたが、ハッと気がついて言い返しました。すると、ガルゴナーは『ばれたか』とちょっと残念そうな顔をして、指で自分の鼻のてっぺんを掻きました。
「ちぇっ、俺的にはそういう正面突破が一番好きなんだけどなぁ」

「ひどいなぁ。女の子からそんなに簡単に好きって言えないから、バレンタインデーがあるのに。それに……悠斗君、クラスの女子にすごく人気あるし。もし他の女子と両想いで、真緒振られちゃったらかっこ悪いよぉ……クラスでばれるのいやだもん」
そう言って真緒ちゃんは少しむくれて唇を尖らせました。すると、ガルコナーは笑って、
「そうすねるなって。……それじゃ、仕方ないから俺のできる魔法で一番すごいやつ使ってやるよ。いつもならちょっと出し惜しみして使わないやつ。だけど、今回は出血大サービスだ。どうだ、すごいだろ?」
と、偉そうにふんぞり返りました。

「うーん。偉いかどうか……魔法の中身を聞いてみないとわかんない」
小首をかしげて真緒ちゃんがそう言うと、ガルゴナーはガクッと体勢を崩してみせた後、「そうかそうか」と少し恥ずかしそうに頭を掻いて言いました。
「そりゃそうだよな。えっと……つまり俺の一番の魔法は、マオにだけゆーとが誰を好きなのか見えるようにする魔法だ。と言っても心の中を読めるとか言うのはマナー違反だ。だから……たぶん明日学校で他の女の子もゆーとにチョコをあげるだろ。それを受け取ったゆーとがその女の子を好きなら、ゆーとの頭の上でピカッと光がつく。つかなかったらその子とは両想いじゃない。……どうだ、すごいだろ?」

「うん! すごい!」
真緒ちゃんが大きくうなずくと、ガルコナーはもう一度偉そうにふんぞり返りました。それからガルコナーは
「と言う事で、俺の仕事は明日まで他にないな。せっかくの機会だから、ちょっと人間界を見物してくるか。夜には戻る。じゃあな」
そう言うと、その体をキラキラの光の粒に変え、真緒ちゃんの返事も待たずにそのまま窓のガラスをすり抜けて外へ飛び出して行ってしまいました。

「あっ、行っちゃったぁ。ケチだなあ。もうちょっと真緒の相手してくれてもいいのに。せっかく妖精さんと知り合いになれたんだもん。聞きたいこといっぱいあるのにぃ。たねから出してあげたの真緒だぞぉ」
真緒ちゃんはそう言って不満そうに頬を膨らませて、ガルコナーが出て行った窓の外をにらみました。

 そして、夜になってもガルコナーは遊びに行ったきりなかなか帰って来ません。真緒ちゃんはだんだん心配になって来ました。
「ガルコナー、遅いなあ。ひょっとしてこのまま帰ってこないんじゃ? それとも、どこかで迷子になっているとか? ……そうだったら、どうしよう?」

 結局、真緒ちゃんが宿題を終え、晩御飯を食べ終え、お風呂もすませ、明日の準備もすんでもう寝ようとした時、ようやくガルコナーは戻ってきました。

 ガルコナーは疲れた様子で、
「ただいま〜。まいったよ。あちこちで妖精仲間と出くわしたまでは良かったんだが、その中にちょっと苦手なやつまでいて……あ〜あ、疲れたぁ」
そう言うと、机の上でゴロンと仰向けに寝転んでそのまま眠り込んでしまいました。

「わっ、もう寝てる。でもそのまま寝たら風邪ひくよ。……妖精さんって風邪ひかないのかな?」
真緒ちゃんは。ガルコナーが無事に帰ってきたことにホッとし、次にガルコナーが服のままお布団もかけないで眠ってしまったことが心配になりました。それで、どうするかちょっと考えた後。ポンッと手を打って、ラックにかけてあるお気に入りのマフラーを手に取りました。

 真緒ちゃんはマフラーを4つに折ると、ガルコナーを起こさないようにそっと持ち上げてその3枚重ねた上に寝かせました。それから残りの一枚を掛け布団のようにガルコナーにかけました。
「よし!」
これで安心して眠れるわと真緒ちゃんが自分のベッドに戻るのを、眠っているはずのガルコナーが薄目を開けて面白そうに見つめていました。




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