妖精のおまけつきチョコ 5】


 やがて、真緒ちゃんの家まであと4件のところで、真緒ちゃんは一つ年上の幼馴染歩夢君に追いつきました。それで、真緒ちゃんは悠斗君にあげる予定だったチョコを捨てるのももったいないし持っているのも悔しいので、つい怒っている勢いでこの歩夢君にあげることにしました。
「あゆむくん」
真緒ちゃんが後ろから声をかけると、歩夢君は立ち止まって真緒ちゃんを振り返りました。
「あ、おかえり真緒ちゃん」

「ただいま。はい、これ!」
「えっ?」
真緒ちゃんは驚いている歩夢君にチョコレートの箱を押し付けると、そのまま家へと駆け出しました。

 ピカッ! その瞬間、真緒ちゃんの後ろ、歩夢君の頭の上で、金色の光がピカピカと輝きだしました。
「おおっ! やったぁ! すごいじゃん、マオ……って、いないし。おーい、マオ〜!」
ガルコナーは、歩夢君の光に気がつくこともなく家に入っていってしまった真緒ちゃんに、このことを教えてあげるべく慌てて後を追いました。


 ガルコナーが真緒ちゃんの部屋に入ると、ちょうど真緒ちゃんは机の上に頬杖をついて、唇を尖らせながら文句を言っていました。
「あ〜あ、がっかり。こんなんだったら何にも知らない方がよかったかも。そしたら悠斗君にもチョコ渡せたのにさ。お助け妖精って全然お助けになってないじゃん。……やっぱり100円のは安すぎたのかなぁ」

『ムッ! そりゃ、俺はまだ見習い妖精だけどさ。ぶつぶつ』
ガルコナーは真緒ちゃんの愚痴を聞きとがめ、少しムッとしましたが、すぐに名案を考え付いたらしく、ニヤリと悪戯っぽく笑いました。そして、ふわりと真緒ちゃんの目の前に舞い降りると、片方の手を腰にあて、もう片方の手でお得意のチッチッチと気取ってポーズをとりながら言いました。
「そうがっかりするなって。うまくいかなかった場合も、ちゃ〜んとアフターフォローのサービスつきだ。マオの為に、本当に特別のそのまた特別の大サービスで、最高のおまじないをかけていってやるから」

「最高のおまじない? 何それ?」
途端、真緒ちゃんは興味いっぱいの表情で身を乗り出しました。ガルコナーは偉そうにコホッと一つ咳払いをすると、指で真緒ちゃんを指して言いました。
「それはな……俺様のおまじないで……近いうちに真緒ちゃんに恋する素敵な男の子が現れるって魔法だ。どうだ、すごいだろ?」

「うそぉ〜! ほんとに?」
真緒ちゃんが両手のこぶしをほっぺに当てて聞き返すと、ガルコナーが厳かに「うんうん」と何度もうなずきました。
「本当だ。……そうだな、一ヶ月だな。それぐらいたった頃に、必ずその相手はマオに告白してくる。これは保証する。……で、どうする? 最高のおまじないして欲しいか?」

「う、うん、うん、うん。やって、やって」
真緒ちゃんが興奮して激しくうなずくと、ガルコナーはクスッと笑って再び浮かび上がりました。そして、真緒ちゃんの頭の斜め上で止まると、
「それじゃ目を瞑って。いくよ〜」
そう言うと、ガルコナーは何か真緒ちゃんの知らない言葉でごにょごにょと呪文を唱えはじめました。真緒ちゃんはその間、ドキドキしながらギュッと目を閉じ、両手を顔の前で組んでじっとしていました。

「終わったぞ、マオ。ふぅ、これで完璧」
そう言って、ガルコナーは一仕事終えて疲れたように手で額を擦りました。
「ありがとう〜。一ヶ月後かぁ〜。楽しみだなぁ〜」
真緒ちゃんがワクワクとした様子でそう言うと、ガルコナーは自信満々にうなずいて、
「ま、楽しみに待っているんだな。……それじゃ、お助け妖精の役目も無事終えたし、ちょっと早いけどそろそろおいとまさせてもらうぜ。途中にちょっと寄りたいところもあるんでな」
そう言って窓の外を指差しました。

「えっ? もう? ……うん。どうもありがとう、ガルコナー。さようなら」
真緒ちゃんは、本当はガルコナーにもっとゆっくりしていって欲しかったのですが、行きたいところがあると言うのでは無理に引き止めるわけにもいきません。内心ひどくがっかりしながらガルコナーにお別れの挨拶をしました。

 ガルコナーは窓の前でまた片手を挙げ、
「それじゃ、またな、マオ。スラン」
と、言うと光の粒になって外へ飛び出していきました。

「スラン? それが妖精さんのさよならの言葉なのかな? でも、またって……また会えるのかなぁ?」
真緒ちゃんは。ガルコナーが消えていった窓を眺めながら小首をかしげて不思議そうにつぶやきました。それから、また机の上に両手で頬杖をついてクスッ。
「うん。でもおもしろかった。悠斗君には失恋しちゃったけど、最高のおまじないもしてもらえたし。それに……本物の妖精さんに会えたのが一番うれしかったかも。また会えたらいいなぁ。……来年のバレンタインもあのチョコ屋さんに会えたらいいな。そしたら、また買うんだ。ガルコナーつきのチョコレート」

 ガルコナーのおまじないが果たしてうまくいったのかどうか。それは……一ヶ月後の お・た・の・し・み。





     BACK         NOVEL          


NEWVEL投票 よかったと思われましたら投票よろしくお願いいたします。 

女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理