妖精のおまけつきチョコ 2】


「ただいま〜」
家に着き玄関を開けると、ママがリビングから真緒ちゃんに声をかけてきました。
「おかえり。おやつはテーブルの上にあるから、好きなのを持っていきなさい。食べる前にちゃんとうがいして手を洗うのよ」

「は〜い」
『ママ、またドラマの再放送に夢中だな』
真緒ちゃんはママがリビングから出てこない時は、TVが面白い時だと知っているので、邪魔しないようにそのまままず自分の部屋に戻りました。そして、机の上にチョコの箱と妖精のたねの袋をそっと置き、それからランドセルを机横のフックにかけると、おやつと飲み物を取りにダイニングに向かいました。

「好きなのをって。いくらなんでもママいっぱい買いすぎ」
ダイニングのテーブルの上には、ポテトチップス、大福、クッキー、菓子パンなどなど、どかっと置いてあります。最近近所に新しくオープンした安売りスーパーにすっかりはまってしまっているママは、オープンセールで激安のお菓子をどんどん買ってくるのです。そして、冷蔵庫を開けると、そこにもプリンやゼリーがいっぱい。

「太るよ……ママ」
真緒ちゃんはふぅとため息を一つ吐いて、そうつぶやきました。それから、何にするかしばらく悩んだ後、クッキーの箱を一つ。それから、グラスに悠斗君の好きなコーラを注いで、それらを手に、転ばないようにゆっくりと慎重に自分の部屋へ運んでいきました。

コトッ。コーラの入ったグラスを無事机の上に置くと、真緒ちゃんはホッと一息。それから、ちょっとドキドキしながら、妖精のたねの入った袋を手に取りました。
「妖精のたねってどんなのかなぁ?」
袋を切って中身を手のひらに。……それは真っ白でうずらの卵を少し平べったくしたような形の種でした。真緒ちゃんはその種を親指と人差し指でつまんで透かすようにして見てみました。特に変わった様子はありません。
「う〜ん。普通のたねみたいだけど……とにかくやってみよう」
ちょっと小首をかしげてそうつぶやいた後、そのたねをコーラの入ったグラスの中へポチャン。

真緒ちゃんがワクワクしながら見ている中、妖精のたねはまっすぐにグラスの底へ沈んでいきました。そして、一度ペタッと底に着いた次の瞬間、たねはムクッと立ち上がったのです。
「あっ、立った!」
たねは次にクルクルと回りだしました。シュワ〜と炭酸の泡を弾き飛ばしながら、その回転はどんどん速くなっていきます。そして、少しずつ膨らんでいくと同時に上へとあがってきます。

「すごい、すごい」
感動している真緒ちゃんの目の前で、やがてたねは大きく膨らんでまっしろなふわふわの実になってコーラの上に浮かびあがりました。そして、全体がキラッと光ったと思った次の瞬間、その実がパカッと花が開くように4つに割れたのです。

『ごくっ!』
緊張に息を呑む真緒ちゃん。そして、中から現れたのは……片方の手でボサボサの茶色い髪を掻き、もう片方の手でヨレヨレの青いシャツのすそを引っ張っている小さな男の子でした。
『えっ? これが妖精さん?』
期待していたのとはちょっとイメージが違っているその少年の姿に真緒ちゃんは呆然。真緒ちゃん的には綺麗なひらひらのドレスを着て羽のはえた女の子を想像していたのです。

少年は、真緒ちゃんの視線に気がつくと、まだポリポリと頭をかいたまま、シャツのすそを引っ張っていた方の手を軽くあげて少し照れくさそうに真緒ちゃんに挨拶してきました。
「うぃっす!」

「う……うぃっす」
つられて真緒ちゃんも片手をあげてご挨拶。

少年はグラスの上から机の上にピョンと飛び降りると、少し意外そうに真緒ちゃんを見上げ、顔の前でチッチッチと人差し指を立てて振りながら言いました。
「あんたが今回俺に面倒見てもらうレディ? ちょっと子供すぎないか? まだ全然お子様じゃん。恋するにはちと早すぎるぜ、ベイビィ」

『ムッ! なんかちが〜う!』
イメージとあまりに違う上にとても失礼な少年の態度に、真緒ちゃんはプクッと頬を膨らませました。けれど、少年はそんな真緒ちゃんの不満顔を気にする様子もなく、キョロキョロと部屋の様子を見回しながら言いました。
「ま、とにかく、仕事は仕事だ。その辺、きちんとやらせてはもらうから安心しな。俺の名前はガルコナー。あんたの名は……マオか。じゃ、マオ、よろしくな」

『えっ? 真緒、まだ名前言ってないのに。やっぱり妖精さんだから、言わなくてもなんでもわかるんだぁ』
真緒ちゃんがびっくりした顔をすると、ガルコナーはニヤッと得意そうに笑いました。
「ま、それくらいはな。当然!」
それから、ちょっときまり悪そうにまた頭を掻きながら言いました。
「でも俺、まだ見習い期間中だから、あんまり過度な期待をされても困るぜ。ま、値段の分程度の期待でよろしくな」

「値段の分……100円分の期待って……。うーん」
真緒ちゃんは妖精の世界で人間の世界の100円がどれくらい価値があるのか想像もつきません。でも、100万円よりずっと安いことだけはわかります。
『……なんとなく、失敗したかも。せめて200円のチョコとかにすればよかったかな?』
一番安いチョコを買ってしまったことを軽く後悔しはじめた真緒ちゃんでした。



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