【しいちゃん3】

 雨の日から3日後、しいちゃんはママとレンゲ畑にいました。
今日は日曜日でとっても良いお天気です。
ママはしいちゃんの為に花の首飾りを作りながら、しいちゃんにもわかるように首飾りの作り方をゆっくりと何度も教えてくれます。
しいちゃんはそんなママの手元をじっと見つめながら、自分でも首飾りを作ろうとしていました。
でも、レンゲの茎はもろく、すぐに折れてしまって、なかなか思うようにいきません。
それでいらいらしてすぐに投げ出しそうになるしいちゃんに、ママは根気よく何度も繰り返し、
「そっとやさしくね。力を入れ過ぎてはだめよ。
そっと『仲良くしてね』ってお花さんにお願いしながら編むのよ。
そしたら、きっと、しいちゃんの気持ちが伝わるから。」
と励まします。
しいちゃんはその度真剣な顔でうなずいて、その手に持っているレンゲの花に小さな声で何か話しかけながら、そーっと茎を結ぼうとしていました。


 その時、ブーンと羽音を立てて、一匹のミツバチがしいちゃんのレンゲの首飾りに近づいて来て、その中の花の一つに止まりました。
「やっ、やっ」
しいちゃんは悲鳴をあげて立ち上がって逃げようとしました。
でも、ママはしいちゃんの腕を掴んで、首を振りました。
「大丈夫、ミツバチさんは怖くないのよ。
ただ、しいちゃんの首飾りのお花の蜜を分けてもらいに来ただけなのよ。
しいちゃんがじっとしていれば、何にもしないのよ。
そのままにしてるのよ」

 でも、しいちゃんは「やっ、やっ」を繰り返して激しく首を振り 今にも泣き出しそうです。

ママは手を伸ばし、しいちゃんの肩を抱き寄せて、落ち着かせようとしました。
「しいちゃん。ミツバチさんはね、お花さんと仲良しなの。
そして、しいちゃんもお花さんと仲良しでしょ。
それに、しいちゃんはママの焼いたハチミツケーキも好きよね。
ハチミツはね、そのミツバチさんたちが一生懸命働いて集めてくれるのよ。
小さな小さなミツバチさんだから、一匹だけだとほんのちょっとだけ。
でも、たくさんの仲間たちと力を合わせて たくさんのお花の蜜を集めるのよ。
そして、そうやってミツバチさんが作ってくれたハチミツが、しいちゃんの大好きなハチミツケーキになるのよ。
だから……しいちゃんとミツバチさんも仲良しにならなくちゃね」
しいちゃんは一度ママを見上げ、それから小さくうなずくと、両手で耳を塞いでぎゅっと目を閉じてじっとしています。
ママはそんなしいちゃんの仕草を愛しそうに見つめました。

 ミツバチは、甘い蜜の香りのする花を見つけることに夢中で、まして、小さな自分が怖がられているなんて全然思ってもいないことでしょ。
ただただおいしい蜜を集めてくるという自分の仕事を一生懸命のようです。

やがて、ミツバチはお目当ての花の蜜をたっぷり吸うと また元気良くブーンと羽音を立てながらその花から飛び立ちました。

「しいちゃん、もう ミツバチさん 飛んで行ってしまったわよ」
ママに言われて、しいちゃんは目を開け、両手を降ろすと、安心したようにホッと大きく息を吐きました。
ママは笑ってしいちゃんの頭をなでました。
「えらかったわよ しいちゃん。
ちゃんと我慢してミツバチさんのお仕事の邪魔をしなかったものね」
しいちゃんは小さくうなずくと、レンゲの花の首飾りを大切そうになでながらにっこり笑いました。
「しいちゃん お花 ハチミツケーキ 好き。……ミツバチ さん 好き」

 ママは楽しそうに笑い声をあげました。
「そう。じゃあ 頑張ったご褒美に、おうちに帰って しいちゃんの大好きなハチミツケーキを焼いてあげましょうね」
「うん」
しいちゃんは待ち切れないという様子で元気に立ち上がりました。

 しいちゃんとママは、手をつないで、仲良くおうちへと帰って行きました。




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