【しいちゃん1】

「おばちゃ〜ん、しいちゃんが……」
「えっ?」
突然のかずみちゃんの大声に、しいちゃんのママは 慌てて台所から二人が遊んでいる子供部屋へと駆け出しました。

 しいちゃんは、今年の春小学1年生になったばかりの女の子です。
『小沢しのぶ』という名前で、みんなからは『しいちゃん』と呼ばれています。
しいちゃんは、生まれつき他のお友達とちょっとだけ違っています。
言葉や動きがちょっとだけ遅れていて、考えることもちょっとだけ。
でも、とても明るくて優しいしいちゃんをみんな大好きです。
それで、時々変わったことをしてしまうこともあるしいちゃんですが、たくさんのお友達に囲まれて、いつも楽しそうにニコニコと笑顔でいられるのです。

 子供部屋から庭に面した縁側にかずみちゃんが困った顔をして立っていました。
そして、しいちゃんはと見ると、あらあら大変、雨の中 庭に降りて、お気に入りのピンク色の傘を差し、楽しそうに歌いながらジョウロでチューリップに水をあげています。

 かずみちゃんは、しいちゃんのママを見上げて、なぜこうなったのかを説明してくれました。
「あのね、さっきしいちゃんとお庭を見てて、それで『チューリップのつぼみが大きくなったから、もうすぐお花が咲くね。何色のお花かな? 楽しみね。』ってかずみがしいちゃんに言ったの。
そしたら、しいちゃん急に『お花 お水あげる』って言って。
かずみね、ちゃんと言ったのよ。
『今日は雨が降ってるから、お水あげなくてもいいよ』って。
でも、しいちゃん 『気持ち』って言って……」

 心配そうな様子のかずみちゃんに、しいちゃんのママは、『大丈夫』と微笑みかけました。
「……そう。困ったしいちゃんね。かずみちゃんはちゃんと教えてくれたのにね。
……じゃあ、おばちゃんがしいちゃんに聞いてくるから、かずみちゃんはここで待っててね」
かずみちゃんは安心して、「うん」と小さくうなずきました。

 ママは、お庭に出ると、しいちゃんのすぐそばにしゃがみました。
「しいちゃん、どうしたのかな?」
ママがそう尋ねても、しいちゃんはまだ楽しそうにジョウロの先から流れ出す水を見つめて歌っています。
「お花 しいちゃん かずちゃん 気持ち あげる。お水 いっぱい」

ママは『ああ、そうなのね』と微笑みました。
この前、花壇にママとしいちゃんとでチューリップの球根を植えた時、ママがしいちゃんに、
「毎日『きれいに咲いてね』ってお願いしながらお水をあげると、とってもきれいなお花が咲くのよ。
お花にはね、しいちゃんの気持ちが伝わるのよ」と言ったのでした。

 ママは、優しくしいちゃんに言いました。
「そうね、しいちゃんとかずみちゃんの気持ちをいっぱいもらってお花さんもとっても喜んでいるわね。
それに、今日は雨も降っていて、お空の神様の気持ちももらえているし。
……だから、お花さん もうおなかいっぱいかも知れないわね。
『残りはまた明日ちょうだい』って言ってるかも」

 しいちゃんは びっくりしたようにチューリップのつぼみを見つめました。
それから2、3回頭をかしげて考えた後、コクンとうなずいて言いました。
「おなか いっぱい。また 明日」
「そうね、また明日ね。
じゃあ、今度はしいちゃんのおなかにママの気持ちをあげるわね。
今日のおやつはしいちゃんの大好きなハチミツケーキよ。
かずみちゃんと一緒に食べましょうね」
ママがそう言うと、しいちゃんはうれしそうににっこり笑いました。


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