【モーランの頼み 1】


「マンボウじいさ〜ん! おーい! マンボウじいさんってばぁ〜!」

『ん?』
遠くから自分を呼んで来る声に目を覚ましたマンボウじいさんは、その小さくてまん丸の目をキョロキョロ。すると一羽のオオミズナギドリが海上を滑空しながら自分に向かってくるのが見えました。

「おやっ? ……あの顔はどこかで……」
マンボウじいさんは、そのオオミズナギドリの顔を『どこかで見た覚えがあるなぁ』と、ぼんやり考えました。

オオミズナギドリはマンボウじいさんの側まで来ると、海面にプカッと浮いているマンボウじいさんの体の上にチョンと降り立ち、ニッコリ笑って言いました。
「こんにちはマンボウじいさん。お久しぶり。どう? ボク、随分飛ぶのが上手くなったでしょ? おかげであちこち行くことができて、今まで見たこともないものもいっぱい見て、全然知らなかったこともいっぱい知ったよ。これもみんなマンボウじいさんのおかげです。どうもありがとう」

オオミズナギドリがペコッと頭を下げてそう礼を言うと、マンボウじいさんも思い出したらしく楽しそうに答えました。
「ああ。おまえさんはあの時のソラスズメの坊やか。えーと……確か……シェルンといったかな?」

「うんうん」
オオミズナギドリは、マンボウじいさんが自分の名前を覚えていてくれたことがうれしく、大きく何度もうなずきました。
「そう。ボクは、あの時マンボウじいさんに魔法でオオミズナギドリにしてもらったソラスズメのシェルンだよ」

「そうかそうか。元気そうでよかった。それにしても久しぶりだのぉ。広いこの海で偶然こうして古い知り合いに会えるのもうれしいことじゃ」

『いや、そこまで古くないし……』
シェルンは、昔を懐かしむようなマンボウじいさんの物言いにそうこっそり突っ込みを入れました。それから、自分がいつものマンボウじいさんののんびりペースに巻き込まれていることに気がつくと、慌ててその細長い翼をバタバタさせながら首を振りました。
「違う違う。偶然じゃないよ。ボク、昨日からずっとマンボウじいさんを探していたんだよ」

「わしを? ほぉ〜、そりゃ奇特な。……それで、どうして? またわしに何か願い事があるのかな? 元のソラスズメに戻してほしいとか?」
マンボウじいさんが不思議そうに尋ねると、シェルンは片方の翼で自分がやってきた方角を指しながら言いました。
「ううん。助けて欲しいのはボクじゃなくて……。あのね、あっちの方角にずっと行くと小さな島があるんだよ。島と言っても山とか全然なくて、低い陸地が輪っかの形をしてあるだけで、しかもその内側は浅い海になっているんだ」

「ああ。環礁か」
マンボウじいさんが『わかった』という風にうなずきました。

「うん。そのカンショー」
シェルンは、その言葉の意味を理解したのかどうかはなはだ怪しいながらもそう言ってうなずいて、説明を続けました。
「それでね、そのカンショーにボクが行くとねぇ、カンショーの内側の海にいたマンボウさんに『おーい』って声をかけられたんだよ。で、ボクが近づいて行って『どうしたの?』って聞いたら……」


それはこういうことでした。

ある日、そのマンボウ(名前をモーランといいました)がいつものようにプカリと海面に浮いてのんびり日向ぼっこをしていると、突然今まで経験したことのないような大波がやってきたのです。そしてその波は、モーランをどんどん遠くへと運んでいきました。モーランがそれを『ほぉほぉ』と面白がってなすがままにしていると、やがてその大波は環礁の陸地を乗り越え、中の海にまでモーランを運んでしまったのでした。

最初のうちモーランは、『すぐにまた別の大きな波が来て、外海へ出してもらえるだろう』とのんびりかまえていました。ですが、何故かいつまでたって波はやってきません。それでようやくモーランは、ハタと自分が環礁の内海に閉じ込められてしまったことに気がついたのでした。さすがに『これはまずいかも』と慌ててどこかに出口はないかと環礁の切れ目を探したのですが、小さな魚なら通れる程度の穴しか見つかりません。体の大きなマンボウのモーランを外に出すような切れ目はどこにもなかったのです。

「別にな、ここがどうしても嫌だというんじゃないんだ。だが、オレが楽しく暮らすにはちょっとここは浅すぎるんだ。美味いクラゲはもっと深いところに住んでいるからな。エサが無いわけではないが、好物があるというわけでもない。それに、やっぱり……広い世界の方がいいだろ。いろんなやつに会えるし」
モーランはそう言い訳した後、
「それで、もしよかったら、オレを閉じ込めているこの陸地を空から見て、どこかに出られそうな場所がないか調べてくれないか? 海の中にいると気づかなくても、上空から見渡せばわかるかも知れないからな」
と、シェルンに頼んできました。





          NOVEL        次へ   




女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理