【まゆとクルン2−2】

「あっ、浮いた」
嬉しそうに声をあげるまゆの手を握って、クルンがヒヤシンスの花を指差して言いました。
「それじゃ、まず、ヒヤシンスさんにご挨拶だ。ぼくたちが出会った思い出のお花さんだからね」

 クルンは、まゆを連れてピンクのヒヤシンスのすぐ上まで昇ると、元気よく声をかけました。
「こんにちは、ヒヤシンスさん。また来ちゃった」

 すると、ヒヤシンスの花びらが揺れて、優しい声で返事がありました。
「こんにちは。お友達にまた会えたのね。よかったね」
「うん!」
クルンが大きくうなずくと、ヒヤシンスは今度はまゆに声をかけてきました。
「こんにちは、まゆちゃん。いつも私を見にきてくれてありがとう。こうしてお話ができてうれしいわ」

「あっ、まゆもすごくうれしいです。お花さんとお話できるなんて夢みたい」
と、ドキドキしながら答えました。

 その時、向こうの花壇からもまゆとクルンに声がかかりました。
「おーい。こっちにも来てくれよ〜。美味しい蜜を分けてあげるから」
まゆとクルンは、お互いの顔を見合わせて、クスッと笑ってうなずきました。そして、手を繋いだまま、声をかけてくれたお花の方へと飛んでいきました。

 こうして、まゆは、クルンと一緒に、春の公園の花壇を花から花へと渡って、楽しくおしゃべりしたり、甘い蜜を食べさせてもらったりと、不思議で優しい時間を楽しみました。サッカーをしている男の子が蹴ったボールが当たって茎を傷めて泣いていたパンジーには、まゆがクルンから妖精の杖を借りて、治してあげたりもしました。

そして、魔法の解ける時間があっと言う間にやってきました。

 シュルシュルシュル。まゆが元の大きさに戻ると、クルンはヒヤシンスの上に腰掛けて言いました。
「もう帰らなくっちゃ。……まゆちゃん、手を出して。手のひらを上にね」

「ん? こう?」
まゆが言われた通りクルンに向かって手を出すと、クルンはその手に向かって妖精の杖を振りました。すると、まゆの手のひらの上には小さな花の種が10粒現れました。

「これは?」
首をかしげて尋ねるまゆに、クルンがちょっと恥ずかしそうに答えました。
「それ、ぼくの花の種。まゆちゃんがその種を大事に育ててくれると、それだけぼくの力も増すんだ。……ぼくだけの力じゃ一人前になるにはいっぱい時間がかかっちゃうけど、もしまゆちゃんがまたぼくに会いたいと思ってくれて、そう願いながらその種を育ててくれたら、ぼく、ずっとずっと早く一人前になれるんだよ。その種が花を咲かせた時が、ぼくが今度こそ一人前の妖精としてまゆちゃんに会いに来れる時なんだ」

「そうなんだぁ。うん。まゆ、頑張って大切に育てるね。ありがとう、クルン」
そう言って、まゆは手の中の種を大切そうに握り締めました。

「それじゃ、その時まで、またね、まゆちゃん」
そう言うクルンの後ろに、光の扉が現れました。
「うん。今日は本当にありがとう、クルン。まゆ、とっても楽しかったわ」

 まゆのお礼に、クルンも嬉しそうににっこりと笑い、そのまま光の扉の中に入っていきました。

 光の扉が消えると、まゆは、
「クルンのお花の種。早く植えなくっちゃ。クルンが一日でも早く一人前の妖精さんになって、またまゆと会えますようにって。まゆ、頑張る」
と、手の中の種を零さないように両手で包むようにして、急いでおうちへと帰っていきました。

そんなまゆの後姿をヒヤシンスの花が優しく見送っていました。





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