【まゆとクルン2−1】

 春のやわらかな陽射しを受け、ヒヤシンスが甘い香りを振りまきながら咲いています。まゆは、一週間前にクルンに会えたヒヤシンスの前にチョコンとしゃがむと、小さく首をかしげながら花びらを覗き込んでつぶやきました。
「クルン、いないかなあ?」
あの日から、毎日、こうしてまゆはヒヤシンスの花を見に来ているのです。

 すると、ピンク色のヒヤシンスの花の後ろから透き通ったはねがチラッ! そして、次の瞬間、クルンがひょこっと顔を出して、照れくさそうに笑ってまゆに言いました。
「エヘッ! 来ちゃった」

「わっ! クルン!」
まゆは、そのまあるい目をより大きく見開いて驚いた後、嬉しそうににっこりと笑いました。
「本当にクルンだぁ。もう一人前の妖精さんになれたの?」

「ううん。まだ全然」
クルンは首を振って、ポリポリと頭をかき、それから、右手に持っているキラキラ光る杖をまゆに見せて言いました。
「ぼくが一人前の妖精になるには、まだまだいっぱい時間がかかるんだって。だから、それまで待っていたら、まゆちゃんへのお礼が遅くなってしまう。それでね、長老様が、『まずは助けてもらったお礼だけでもしてきなさい』っておっしゃって、この妖精の杖を貸してくださったんだ」

「わっ、そうなんだ。それで? その杖でどんなお礼をしてくれるの?」
まゆが不思議そうに杖を見つめて尋ねると、クルンは「エヘッ!」と、ちょっと得意そうに指で鼻の下をこすって答えました。
「これはねえ……少しの間だけだけど、まゆちゃんをぼくと同じ花の妖精にできるんだよ。すごいでしょ?」

「まゆを妖精さんに? うん。すごいすごい」
まゆは驚きと喜びで「うんうん」と何度も大きくうなずきました。

「それじゃ、いくよ、まゆちゃん。この杖をじっと見ててね」
そう言うと、クルンはキラキラ光る妖精の杖をまゆに向け、なにか不思議な言葉をつぶやきました。

すると……。

 キラキラキラ。虹色に輝く光の帯が、杖からまゆに向かって伸びていきます。そして、その光がまゆの体に届いたと思った瞬間……シュルシュルシュルっとまゆの体が小さくなり、とうとうクルンと同じ大きさまで縮んでしまいました。

「うわぁ〜。周りがみんな大きくなっちゃったぁ。お花も塔みたいに高〜い」
まゆはびっくりしたようすでヒヤシンスの花を見上げました。フワッ! 花の頂上からゆっくりとクルンが降りてきて、まゆに手を伸ばして言いました。
「さっ、まゆちゃん、一緒に飛ぼう。まゆちゃんもはねを広げて。心で思うだけでちゃんと動かせるよ」

「えっ?」
言われて後ろを振り返ると、いつの間にかまゆの背中にも透き通った綺麗なはねがついています。
「うわぁ〜。綺麗」
まゆはうれしそうにはねを見つめ、それから心の中で「はねさん、ひらいて」と祈りました。すると、ふわ〜と、まゆの背中のはねが開きました。それは蝶々のはねの形で、キラキラと虹色に輝き透き通っています。そして、そのはねがゆっくりと動いて、まゆの体を宙に浮かせました。




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