【元気なイルカたち 2】
 翌日、マンボウじいさんが深海でエサのイカを充分に食べて海面に上がってくると、昨日のイルカの子供たちが待っていました。イルカの子供たちはマンボウじいさんを見つけると、とてもホッとした様子で叫びました。
「いたいた。マンボウじいさんがいたよ!」
「わーい、助かったぁー!」

「ん? どうかしたのかね?」
マンボウじいさんが相変わらずののんびりとした口調で尋ねると、イルカの子供たちは一斉に「うんうん」とうなずきました。
「あのね。さっきフィンフィンがね、サメに追いかけられて、尾びれを齧られちゃったんだ」
「そうそう。パクッと美味しそうにひとかじり」
「うんうん。仲間みんなでサメを追っ払ったからそれ以上は大丈夫だったけど、尾びれがないと速く泳げないし」

「フィンフィン、マンボウじいさんに食われた尾びれを見せてあげなよ」
その声に、それまで仲間に囲まれて守られるようにしていた一頭の子供イルカが、ベソをかきながら前に出てきました。
「グスン! エーン、マンボウじいさん。ボクの尾びれがこんなんなっちゃったんだ。ねえ、おじいさんの魔法で治せる? 治せるよね? 治せるって言って」

「ほぉほぉ。これはまた盛大に齧られたのう」
マンボウじいさんは、フィンフィンと呼ばれた子供イルカの、大きく齧りとられた尾びれを見て感心したようにつぶやきました。それから、フィンフィンに向かって、なんでもないように大きくうなずきました。
「大丈夫じゃ。心配はいらん。わしの魔法ですぐに元に戻してやるから、そんなに泣かんでいい」

「うん」
フィンフィンは、まだ涙をボロボロと零しながら、それでもホッとしたようにうなずきました。

「よし。それではいくぞ」
そう言うとマンボウじいさんはその小さな口で大きく息を吸い込み、それを一気にフィンフィンに吹きかけました。

「うわぁ〜。きれい!」
「うんうん。虹みたいだ」
「キラキラ光るお星様のかけらみたいだよ」
マンボウじいさんの口から不思議な銀色に輝く息がフィンフィンに吹きかけられる様子を、ほかのイルカの子供たちが感動した様子でながめました。

そして……。

「わぁ〜。元に戻ったぁ〜」
フィンフィンは、すっかり元の形に戻った尾びれを動かして喜びの声をあげました。
「ありがとう、マンボウじいさん!」

「いや。なんの、なんの」
フィンフィンの礼に、たいしたことではないとマンボウじいさんがのんびりと答えます。

その様子を見つめながら他のイルカの子供たちがなにやらヒソヒソ。

 そして、一頭が不思議そうにマンボウじいさんに尋ねました。
「あの、でも、マンボウじいさん。フィンフィンの尾びれ、元に戻った部分がなんだかキラキラと光ったままなんだけど。なんで?」

「おやっ? そうか? ふむ、わしにもよくわからんが。ひょっとしてそこのお若いのが、それを望んだということはないのかな?」

「えっ? フィンフィンが?」
マンボウじいさんの言葉に、イルカの子供たちは一斉にフィンフィンを見つめました。
「そうなの、フィンフィン?」
「キラキラ尾びれにしたかったの?」
「本当にお願いしたの?」

「あ……えーと……ちょっとだけ。キラキラ光ったらカッコイイかもって。……エヘヘ」
みんなに問い詰められ、フィンフィンは照れくさそうにそう白状しました。

「そうかぁ。でも、あんまり目立つと危ないよ。大丈夫?」
「そうそう。またサメに狙われたらどうするの?」

「うーん……」
フィンフィンはしばらく真剣に考えた後、にっこり笑って言いました。
「大丈夫。仲間がいっぱいいるから」

 すると、他のイルカたちが顔を見合わせ、
「そっか。うん、仲間いっぱいだもんね」
「そうそう。皆で一緒なら大丈夫」
「うんうん。大丈夫、大丈夫」
とうなずきあいました。

「それじゃ、マンボウじいさん、どうもありがとう」
皆で並んでマンボウじいさんにお礼を言うと、イルカの子供たちはまた楽しそうに飛び跳ねるように泳いで行ってしまいました。

 その後姿を見送りながら、マンボウじいさんは、
「いい子たちだな。……ふむ、仲間というものもなかなかいいもんだ」
とつぶやきました。






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