【元気なイルカたち 1】
プカプカプカ。マンボウじいさんはいつものように海面にその平たくて丸い体を横たえ、のんびりと潮の流れに身をまかせて北へと移動していました。
「今日も良い天気じゃ。気分がいいのう」
暖かい陽射しを体に受け、うとうととしながらマンボウじいさんはそうポツリ。

プカプカプカプカ……。

けれど、その静けさも突然バシャバシャと波を打つ多くの音と、「ミューミュー」「ピーピー」「ジジジジジジ」とにぎやかな鳴き声が近づいてきて破られました。
「ん? イルカたちか」
マンボウじいさんがゆっくりとその小さな目で後ろを見回すと、数頭のイルカが海面を飛び跳ねながらこっちに向かってきているのが見えました。

「わ〜い、マンボウじいさん。お久しぶり〜」
「あっ、本当だ。マンボウじいさんだぁ〜」
「おじいさぁ〜ん、何かおもしろいことあったぁ?」
イルカたちはマンボウじいさんを取り囲み、口々にそう話しかけてきました。
「おいおい。相変わらず、にぎやかじゃな」
マンボウじいさんが少し困ったような顔でそう答えました。

けれど、イルカたちはマンボウじいさんの困惑もどこ吹く風、楽しそうに周囲を飛び跳ねながら、
「ねえねえ。マンボウじいさんの魔法で、ソラスズメの子供をオオミズナギドリにしてあげたって本当?」
「うんうん。最初は間違ってペンギンにしちゃったとも言ってたよね」
「そうそう。おとなたちの間で、しばらくそんな噂でもちきりだったよね」
と、ぺちゃくちゃおしゃべり。

「ん? ああ、そういえばそんなこともあったな。あの坊や、ちょっとは上手く飛べるようになったのかのう?」
シェルンを思い出し、マンボウじいさんがなつかしそうにそうつぶやきました。それはまだわずか2週間ほど前の出来事だったのですが。

マンボウじいさんのそのつぶやきを耳にしたイルカの子供たちは、興奮した様子でその瞳をキラキラと輝かせ、見るからに好奇心でいっぱいの様子になりました。
「あっ、やっぱり本当だったんだぁ」
「すごい。マンボウじいさんって本当に魔法が使えるんだ!」
「見たい、見たい。おじいさん、何かやってみせて」
そういいながら、イルカたちはマンボウじいさんの体をヒレや口でねだるように揺らします。

「おいおい。そんなにわしを揺すらないでくれまいか? 見せてやってもよいが、まず願いを言ってもらわないとな。おまえさんたち、わしの魔法で何をして欲しいんじゃ?」
困った様子でそう尋ねるマンボウじいさん。

すると、イルカの子供たちは「ん?」とお互いの顔を見つめあいました。そして、しばらくなにやらヒソヒソ。

やがて、イルカの子供たちはにっこりと笑ってうなずきあった後、「せーの」で声をそろえてマンボウじいさんに言いました。
「なぁ〜んにもない!」
それから口々に、
「だってボクたち、何の不満もないもん」
「そうそう。魚も美味しいし、仲間もいっぱいいて毎日楽しいもん」
「うんうん。これ以上ないってくらい幸せだよ」
と続けました。

「ほぉほぉ。そうか、そうか」
イルカの子供たちの返事に、マンボウじいさんも満足そうに笑いました。
「そうか、今が幸せで何も他に望むものはないか。それはいいことじゃ。おまえさんらの幸せがいつまでも続くことを祈っておるぞ。……さ、それならもうわしに用はないじゃろ? そろそろ静かに眠らせてくれ。おまえさんらがそうやって飛び跳ねながら仲間とおしゃべりを楽しむのと同じように、わしはこうしてゆっくりと昼寝をするのが楽しみなんじゃ」

「は〜い」
「それじゃ、またねぇ」
「ばいば〜い」
イルカの子供たちはマンボウじいさんに別れを告げると、また元気良く飛び跳ねるように泳いでいってしまいました。

「やれやれ。やっと静かになった」
マンボウじいさんはホッとして、暖かな陽射しを受けまたまどろみの中へと落ちていきました。





          NOVEL        次へ   


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理