【海を渡る蝶 1】

「うむ。今日は、昨日の嵐が嘘のようにいい天気だ」
マンボウじいさんは、海面に体をプカプカと浮かべ気持ちよさそうにつぶやきました。

 でもまもなく、いつものイルカの子供たちがなにやら「ワッセ、ワッセ」と声を掛け合いながら近づいてきました。

「ん? どうやらまたにぎやかになりそうだのぅ」
マンボウじいさんが苦笑していると、先日尾びれを直してもらったフィンフィンが、そのキラキラ尾びれを輝かせながら真っ先にマンボウじいさんに声をかけてきました。
「おはよう〜、マンボウじいさん」

「ああ、おはよう。それで、どうしたのかね? なにやら随分とにぎやかだが」
マンボウじいさんが尋ねると、フィンフィンは『うんうん』と大きくうなずいて答えました。
「あっ、そうそう。あのね、とっても綺麗な蝶々さんたちがね、昨日の嵐で仲間からはぐれて、迷子になっちゃったんだって。それで、木の上に集まってどっちに行けばいいのかわからなくて困っていたから、連れてきた」

 フィンフィンの説明が終わるのとほぼ同時に、他のイルカの子供たちが一本の流木を押し合って近づいてきました。
「ワッセ、ワッセ」
「もうちょっとだよ。きっとマンボウじいさんがなんとかしてくれるから、心配しないでね」
「そうそう。魔法できっと仲間に会わせてもらえるよ」

「ん? 蝶々? ……ほほぉ、アサギマダラじゃな。風に飛ばされてこんなところまでやってきたのか」
マンボウじいさんは、イルカの子供たちが押してきた流木の上に集まっている数十匹の蝶々の、茶色の羽と中の薄水色の斑紋を見て、珍しそうに言いました。
アサギマダラとは、春に北上、秋に南下を繰り返す、珍しい『渡り』をする蝶々なのです。しかも、こうして海を越えてとても長い距離を『渡る』ものもいるのです。

「うん。昨日の嵐で飛ばされてきちゃったんだって」
「マンボウじいさん、なんとかできる?」
「蝶々さんたちの仲間のいる場所、わかる?」
口々にそう尋ねるイルカの子供たちに、マンボウじいさんは、
「まあまあ慌てるな。そうさのう。できるかどうか……とにかくちょっと待ちなさい」
そう言うと、体の中にある魔法のもと、『伝説の黒真珠』に心で語りかけました。
『どうだい、おまえさん? あの蝶たちの行く道筋を教えることができるかい?』

 すると、マンボウじいさんのおなかの中がほんわりと暖かくなりました。
『そうか。できるのか。それは、迷子のアサギマダラたちも、あのおせっかい焼きのイルカたちも喜ぶことじゃろう』
マンボウじいさんは、満足そうにうなずきました。

「それでは、迷子のアサギマダラたちよ。今からわしが示す道を辿って、仲間のもとへと戻るがよい」
そう言うと、マンボウじいさんはいつものように大きく息を吸い込みました。そして、『ふぅ〜』と吹くと……。









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