【有翼狼の伝説 第三章・天翔る探求者 1


「おおっ」
エアハルトは足を止め、感動の声をあげた。幾つもの山や森を越え草原を駆け抜けてきた果てに、滔々と水を湛えた場所に辿り着いたのだ。今まで見てきた湖や川とは異なり、向こう岸は見えずただ水平線が続いている。
「これが……海なのか?」
確かめる為に、エアハルトは翼を広げ空へと舞い上がった。見渡すかぎり青く美しい水面が広がっている。

「凄い。やはりここが大地の端か」
エアハルトが感慨に耽りかけたその時、上空から
「違うな」
と、声がかかった。

「えっ?」
驚いて見上げると、一羽の鷲が下りてきて、近くの木の頂上に止まった。エアハルトは鷲と同じ高さまで降り、翼をはためかせて空中にとどまりながら訊ねた。
「違うって、これは海ではないのか?」

「海ではない。広大だがただの湖だ。俺ならまっすぐ飛べば日の落ちる前に向こう岸に辿りつける」
鷲はそう説明した後、不審そうに首を傾げてエアハルトに訊ねてきた。
「それより、おまえは何者だ? 野を駆ける獣の姿をしながらも、俺と同じような翼を持ち、そうやって空を飛んでいる。おまえのような者は初めて見た」

「俺は狼だ」

「馬鹿な。翼のある狼など聞いたことも……いや、待てよ……」
笑って否定しかけた鷲だったが、ふと何か思い当たることがあるらしく、宙を見つめながら呟いた。
「そういえば、旅の途中で、天翔ける獣の話をハヤブサのやつから聞いたことがあったような……。てっきりあれはやつの冗談だと思っていたが……」

「旅の途中? どこで? その獣は片方の翼を傷めていたと言ってはいなかったか?」
エアハルトは、それは以前会った自分と同じ有翼狼ハルトムートのことではないのかと思った。

だが、鷲は少し考えてから首を振った。
「さあ、どうだったかな。あまり詳しくは覚えていない。確か、風と氷の大地へそれが飛んでいくのをハヤブサが遠くから見かけたと。それだけだったはずだが」

「風と氷の大地?」
エアハルトの問いに、鷲はまず湖のやや左側を翼でさし示して言った。
「この湖をこの方向にまっすぐ行くと、巨大な滝、更にその先にまた湖。そしてその湖から続いている川に沿って下っていくと海へ出る。海の先に見える島伝いにしばらく進んでみたが、幾つめかの島から先は果てしなく海が続いているだけで他に何もない。諦めて引き返した」

次に、鷲は翼を大きく右へ向けて続けた。
「そして、こっちの方向は、湖の先はしばらくは森と草原だが、更に進むと、奇妙な形をした岩だらけの荒地や白い砂漠にでる。その先も、延々と大地が続き、数え切れぬほどの山や森、荒地を越えた先に、氷に覆われた大地が現れる。そこは常に強烈な風が吹きすさぶ上、凍えるほど寒く、到底それより先に進むことができなかった。……その手前の荒野を住処にしているハヤブサが言っていたのだ。翼の生えた獣がその風と氷の大地へ飛んで行くのを見たとな。戻ってこなかったそうで、その後どうなったかはわからぬと言っていたぞ」





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