【遥かな願いを込めて 】



 広大な宇宙に散りばめられた星々の一つ、惑星エリニア。
そのエリニアは今消滅の危機に直面していました。
エリニアの所属する惑星系の最外縁部にある「彗星の巣」 
そこから、数多くの彗星がエリニアめざし迫ってきているのです。

 国王セルサスを始め、エリニアの人々はこの事態に驚き、科学の粋を集めて迫り来る彗星群の観測分析を重ね、彗星群がエリニアに及ぼす被害を予測しました。
けれど、その結果は絶望的なものでした。
彗星群の中の最大のものレイドの衝突により、エリニアの消滅は確実なものと計測されたのでした。

「エリニアの消滅は避けようがない。だが、せめて人々だけでも、生き延びさせる手だてはないものか?」
セルサスの問いに、科学者たちは現在ある惑星探査船を移民船へと改良し、人々をエリニアから脱出させ、移住できる可能性のある星へと向かわせるという案を進言しました。
ですが、全ての人間を収容するには、あまりに移民船の数が足りません。
また、エリニアの今の科学力では、人間が移住できる惑星を、その可能性があるという段階でしか特定できないのでした。
幾世代、場所によっては数十世代をかけた長い旅の果てに、ようやくたどり着いた目的の星が人間の住める環境でない可能性もあるのです。いえ、住めない可能性の方が遥かに高いことでしょう。

それでも、セルサスは、そのわずかな可能性にかけることを決意しました。

 惑星探査船を移民船に改造する間に、科学者たちは全宇宙に向けて幾度かエリニアからの救いを求めるメッセージを発信しました。万に一つ、エリニアよりも文明の進んだ星があり、その人々が救いの手を差し伸べてくれる奇跡を求めて。
けれど、そう簡単に奇跡が起きるはずもなく、どこからも応えは返ってきませんでした。

……やがて、惑星探査船の移民船への改造が完了しました。

 エリニアの人々は、その種族の血を絶やさぬため、若い世代を移民船に乗せていきました。どうか無事に目的の星へたどり着けることを祈りつつ……。

 全ての移民船がエリニアを無事離れた直後、セルサスは科学者に命じ、宇宙に向けて最後のメッセージを発信させました。

『今、我々は愛しい子供たちを運命の女神の手にゆだねました。運よく子供たちが女神の加護の下、あなた方のもとへたどり着くことができたなら、どうかまだ見ぬ知恵ある人々よ、この子供たちをあなた方の新たな友として受け入れてやってください。この子供たちにはもはや帰る場所はなく、その手に武器はありません。ただ我々の愛と祈りのみを手に、あなた方のもとにたどり着くのですから』

 それから、セルサスは、傍らの科学者たちに微かな笑みを浮かべて言いました。
「もし、このメッセージを受信、解読できるだけの知的文明の存在する星があるとしても、そこが必ずしも平和な世界だとは限らない。我々が歩んできた歴史でさえ、振り返れば、そうでなかった時代の方がはるかに多かったのだから。だが、それでも、私は信じたい、否、信じようと思う。あの子たちの進む先には、きっと心優しい人々の住む平和な世界が待っていると……」



 セルサス、そして、エリニアの人々の祈りをこめたメッセージは、遥かな時、遥かな距離を経て、小さな惑星の知恵ある人々のもとに……今……。



          NOVEL           


(後書き)
これは以前新聞に『プエルトリコのアレシボ電波天文台が、うお座とおひつじ座の間の方角から、謎の電波信号を受信。地球外知的生命体からの可能性も』なんて記事が出た時に思いついたお話です。
↑翌日には否定されちゃいましたけどね。間違いだったって。残念。(;^_^A



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